わすれもの

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「はぁ…はぁ…はぁ…。」 今日は待ちに待ったデート当日。 服良し。 髪型良し。 メイク良し。 …2時間前の話だけど。 ホワイトクリスマス。 言葉だけ聞けばときめいてしまう。 一年に一度の奇跡。 大切な人と過ごす特別な時間に 2人の距離をより近づける魔法。 ツリーをバックに降る雪は 様々なイルミネーションで彩られていく。 まるで、色とりどりの雪が 紙吹雪のように私たちを祝福する。 そんな妄想。 都会に住む私たちにはただの妄想。 現実は非情にも私たちを切り裂く。 電車を止め、道路を止め 挙句の果てには 大勢のクリスマスを足止めする。 私もそんな被害者の1人。 「はぁ…はぁ…はぁ…。」 白い息に混じって、私は天から降る氷の塊を押し退ける。 電車も途中までは動いていた。 あと2駅。 もう少しなのに…。 走るしかなかった。 バスもタクシーも動かない。 残された交通手段は 遅刻確定のセルフ臨時急行だけだった。 お気に入りのスニーカーを置いて 慣れないムートンを履いてきた。 それが余計に仇となった。 ふわふわした生地が水気を吸って 何倍もの重さとなり足枷を作る。 幾度も滑りそうになりながら ただひたすら 彼の待つレストランに走っていく。 少しでも早く 彼の元へ。 彼に、逢いたい。
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