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「大変だったね……」
「うん……辛かった……。誰にも話せなくて、ずっと一人だった。今日だって、誰も来てくれなくて……。お母さんと一緒にいたあの男の人が本当に怖かった。私を見る目が……。でも、本当にありがとう。助けに来てくれてありがとう……。お巡りさんこっちです! なんて、普段は言わないけどね……」
涙が少し引いたのか、彼女の顔に笑みが浮かんでいた。
「僕も言いながら、そう思ったよ。『このセリフ、なんてダサいんだ』ってね」
「ほんとにね……」
僕と同年代くらいの子がこんなに違う境遇を歩んでいるなんて思いもしなかった。何か力になれないだろうか。
「もしさ、今の生活が辛ければ、たまに僕の家に来ない? ご飯くらいはごちそうできると思うからさ。僕のお母さんもきっと喜んでくれるよ」
「うん、ありがとう。辛くなったら行くかもしれない」
「是非来てよ! いつでも待ってるからさ。あ、そういえば、自己紹介がまだだったよね。僕は出本陽太。君は?」
僕がそう言った時、彼女の表情に狼狽の色が浮かんだような気がした。
「どうかした?」
「ううん、なんでもないよ。私は柳生梨乃」
僕はその後、彼女と連絡先を交換し、お互いの岐路に着いた。
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