忘れものしただけなのに

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「…あった! ハァ〜……」  それでも、間違いなく自分の机はそこにあり、お目当てのリコーダーを引き出しの中から取り出すと、A子さんは安堵の溜息を吐きました。 「さ、早く帰ろう……」  そして、目的を果たしたのだから長居は無用と、すぐに教室を出ようと顔を机から上げたのですが、その時、なにやら背後に人の気配を感じました。 「…!?」  驚いて、思わずA子さんが反射的に振り返ると、そこには──教室後方の壁際には、いつの間にやら女の子が一人立っていました。  歳は自分と同じくらいだと思うんですが、クラスメイトではないですし、見かけたこともないような子です。  ……いや、見かけたことがないばかりか、現代の小学生にしてはどうにも違和感があるんです。  前髪をパッツンにしたオカッパ頭……昭和の子供が主人公の某国民的アニメに出てくるような、白いブラウスと肩紐のある赤いスカートのファッション……恰好が古めかしいというか、朝ドラなどでしか見たことのない、昔の小学生を思わせる姿なのです。  でも、それだけはっきりと服装はわかるのに、顔だけは暗がりのせいかよく見えません。 「……わたしのノート、どこにあるか知らない? ……わたしが忘れ物したノート、どこにあるか知らない……?」  その顔の見えない古めかしい女の子が、そんなことをブツブツ呟きながら、ゆっくりとA子さんの方へ近づいて来ます……いや、近づいて来るのですが、まるで床の上を滑るかのように足音がまるでしません。 「……ノートがないの……わたしが忘れたノート、どこを探してもないの……」  背筋に冷たいものを感じ、身体が硬直して動けずにいるA子さんに、徐々に徐々に近づきながら、女の子はそう尋ねます。 「……ねえ、わたしの忘れ物のノート……どこにあるのか教えて……」  そして、目と鼻の先にまで近寄った女の子の顔がようやく見えたのですが……。
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