忘れものしただけなのに

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「…ハァ……ハァ……あ、あれ? ……おかしい……なんで一階じゃないの……?」  ですが、そうして階段を駆け下りる内に、その異様な事態にA子さんは気づきました。  さっきから何度も……どう考えても三階分以上の踊り場を通り過ぎているのに、なぜかぜんぜん一階にたどりつかないんです。  もう六階か七階くらいは階段を下っています……これではまるで、永遠にこの階段が地下へ地下へと続いているかのような感じです。 「……キャっ…!」  これではダメだと足を止めようとした矢先、次の踊り場に立つ女の子の姿が見えて、強制的にA子さんはその場で踏み止まることになります。 「……ノートがないの……わたしが忘れたノート、どこにあるか知らない……?」 「ひ、ひぃぃぃ…!」  先程同様、そう呟きながらゆっくり迫って来る〝ナグサちゃん〟に、A子さんはくるりと反転すると、今度は階段を駆け上がり始めました。 「…ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」  下りるのとは違い、駆け登るのはすぐに脚がだるくなってきて、激しく息が上がってしまいます。  もう、今、何階にいるかもわからないですし、登り続けるのが辛くなったA子さんは、途中で横に折れると、その階の廊下を昇降口方向へと進みました。 「…ハァ……ハァ……ハァ……ひっ…!?」 「……ノートがないの……わたしの忘れたノート……」  しかし、またも進む廊下のその先には〝ナグサちゃん〟が待ち構えていて、忘れ物のノートの在処(ありか)を相変わらず尋ねてきます。 「…ハァ……ハァ……うくっ……ハァ……ハァ……」  踵を返し、再び逆方向へと逃げるA子さんでしたが、そんなことの繰り返しばかりで、いつまで経っても昇降口はもちろんのこと、他の出口にもたどり着くことができません。廊下の突き当たりにあるはずの非常口にもです。
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