忘れものしただけなのに

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 閉じ込められた……。  そんな言葉が、A子さんの脳裏に浮かびました。  このままでは、いつまで経っても外に出ることができない……もし出られなければ、このまま、異次元と化した学校の中にあの子と一緒に一生閉じ込められてしまうんだ……。  そんな絶望的未来を予見し、A子さんは泣きべそをかきながら、くしゃくしゃの顔でなおも必死に逃げ惑います。  そして、なんとか逃げ延びる方法はないものかと必死に考えたA子さんは、〝ナグサちゃん〟のウワサに付随する、ある話を思い出しました。  まあ、とるに足らないオマジナイのようなもので、いかにもとって付けたような話ですし、誰かが付け足した尾鰭のようにA子さん達も思っていたのですが、「もしもナグサちゃんに出会ってしまったら、彼女の探している忘れ物のノートを渡してあげれば助かる」とも言われていたのです。  もちろん、彼女の忘れ物が今もあるわけないですし、そのノートというのはなんでもかまいません。忘れ物に見立てたノートをとにかく渡せばいいんです。 「…ハァ……ハァ……ノート……もう、それしかない……」  なんとも眉唾物の話ではありましたが、半信半疑ながらもその対策法にA子さんはかけてみることにしました。 「ちゃんと、戻れればいいんだけど……」  真っ暗な校舎の中、何度も階段を上がったり下ったりして、最早、自分がどこにいるのかもわからない状況になっていましたが、A子さんは記憶を頼りに、なんとか自分の教室へ戻ろうとします。  すると、外へ出ることを諦めたのがよかったのか? 予想外にもすんなりと、今度はなんの苦労もなく、A子さんは教室に戻ることができました。 「…ハァ……ハァ……の、ノート……ハァ……ハァ……」  教室へ転がり込み、再び自分の机へ飛びついたA子さんは、肩で息をしながら引き出しの中を探ります。 「…ハァ……ハァ……あ、あった!」 「……ノートがないの……どんなに探しても、わたしの忘れ物したノートが見つからないの……」  A子さんの手が算数のノートを掴むのと、またもナグサちゃんが背後に現れるのは同時でした。
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