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「それなら地震とか火事とか津波とか大洪水でいいわ。私が倒せるものなら」
「もっと駄目だし、そういうことじゃないんだってば」
彼女の願いはまったく現実味がない。しかし、それよりも僕が怖いと思ってしまったのは、“自分が褒められて認められて特別扱いされるためなら、その過程で誰が死んでも傷ついてもいい”というその考え方だった。
彼女は生まれつき、こんなに歪んだ考えの持ち主だったのか。
それとも彼女の両親がよっぽど教育を間違えてしまったのか。
「……特別な一日は、自分で作るものなんだよ。誰かに感謝しながら、努力して作らないと。それもなしに、自分にだけ都合のいい一日を神様にお願いしちゃ駄目だ」
それは、最後の忠告だった。
「神様もきっと怒ってるよ。謝ったほうがいいよ。だってあの神社は……」
「あーもう、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさーい!」
「うわっ!」
彼女はブランコから飛び降りると、そのまま近くに立っていた僕を突き飛ばした。僕は勢い余って尻もちをついてしまう。
彼女は僕にべーっと下を出して、そして。
「あんた、私と同じくらいの年なのにジジイみたいに口煩いんだから!だいっきらい!いいわよ、帰ればいいんでしょ帰ればっ!」
ああ、と僕は尻もちをついたまま彼女のひらひらとしたワンピースを見送った。
気配がち近づいてきている。神社の鳥居の方を見て、今度こそ僕は“駄目だこりゃ”と思ったのである。
「もう、せっかく忠告してあげたのに……もう知らね、っと」
僕のお父さんとお母さんが帰って来る――出雲の国から。
二人も彼女の所業に呆れていたし、ついでに言うなら二人は僕より優しくも甘くもない。二人が戻ってくるより前に彼女に改心させていたら、許して貰えたかもしれなかったのだけど。
――鈴花ちゃん、願いは叶うよ。きっと、今日は特別な一日なるね。……悪い意味の、だけど。
その数分後。つんざくような少女の悲鳴が響き渡ったが、僕はもうそちらを見に行くことをしなかった。
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