とくべつ、とくべつ。

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「私に帰れ帰れ言うなら、あんたが先に帰りなさいよ」 「僕の家すぐそこだし、お父さんもお母さんもまだ帰ってこないからいいんだよ。……君の家はお手伝いさんがいるだろ。君があんまり遅く帰ると、お手伝いさん達が責任を取らされるじゃないの?それは可哀想だって」 「ふん、いい気味だわ。いつも私に勉強しろ勉強しろって口煩いんだもの。パパからたんまりお金貰って雇ってもらってるくせに、態度がでかいのよ。少しは私にも優しくすることを覚えた方がいいんだわ」 「あーもう……」  ああ言えばこう言う。僕は頭を抱えていた。こっちは本気で心配して忠告しているというのに。  そもそも、彼女に声をかけたのは。彼女が神社でいつも同じことをお願いしているのが気になっていたからだった。 『今日が、特別な一日になりますように!』  それでいて、お賽銭は一切入れていかない。裕福な家の娘に、お小遣いがないとは思えないのに。  神社の人達も、ちょっと彼女の横柄な態度が気になっているようだった。鐘の鳴らし方も乱暴、順番を無視して人を押しのけてお祈りすることもしばしば。そのうち神様に怒られるんじゃないの、とご近所のおばちゃん達が話していたほどである。  特別な一日になりますように。そのお願いそのものは、けして珍しいものでもないだろうが。 「大体さ、君の言う特別な一日って、なに?」  僕はややうんざりしなからも彼女に尋ねた。 「僕からすると、君ほどお金持ちの家の子はものすごーく珍しいし。欲しい物なら何でも買ってもらえるんじゃないの、パパに」 「そうね。この間は新しいトイプードルを買って貰ったわ」 「……そんな君の特別って、想像もつかないんだけど」  新しいトイプードル。その言い方に、僕は眉を顰めた。前にも犬を飼っていたのに取り替えたと言わんばかりだ。  大体、彼女自身が散歩をしているところを殆ど見たことがない。基本的に散歩をしているのは年老いた執事の男性だ。犬をねだったのにろくに世話をしていないことは見え見えである。 「何でも手に入るから、退屈なのよ」  鈴花はブランコの上で、ピーンと足を伸ばして見せた。きらり、と赤い靴が夕焼けに映える。 「欲しい物は、ゲームも服も何でも手に入る。学校の友達が持っていて、私が持ってないものなんか一つもないわ。勉強もできて、かけっこもできる私はいつもみんなの一番なの。でも、それってすごくつまんないことなのよね」 「つまんない?」
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