とくべつ、とくべつ。

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とくべつ、とくべつ。

「退屈が一番嫌いなの!」  その子は高飛車に言い放った。 「だから、神様にいつもお願いしてたわけ!今日と言う日が、特別な一日になりますよーにって!」 「はあ……」  僕はちょっとばかり呆れて、ブランコでぶらぶらと揺れる彼女の足を見つめる。そこにはピカピカに磨き上げられた赤い靴に、真っ白な靴下が履かれていた。さらに、ふわふわのピンク色のスカートは、ちょっとしたお姫様のように可愛い。  彼女をこの近辺で見かけるようになってから、既に半年くらいが経過しているが。ほとんど毎日違うお洒落な服を来て神社にやって来ている。そこそこ裕福な家庭のお嬢様であるのは間違いないだろう。そういえば、半年くらい前に有名なブランドの社長一家が引っ越してきたとかなんとか、近所のおばさんたちが井戸端会議で話していたような気がする。  きっと甘やかして育てられたのだろう。ついでに、警戒心も皆無。見覚えのない男の子にこうして話しかけられても、まったく不審がる様子がないのだから。 「えっと、とりあえず……」  神社の真横にある公園。現在、僕と彼女がいるのはそのブランコのところなのだが。  敷地内に立っている丸い時計の針は、既に四時半を指している。用事がないのなら、そろそろ家に帰らないと叱られる頃合いではないか。彼女のような良いところのお嬢様なら尚更に。 「そろそろ帰らないとまずくない?鈴花(すずか)ちゃんのお父さんとお母さん、心配するよ?」 「心配すればいいのよ!ふたりとも、最近は鈴音(すずね)のことばーっかり。私にはちっともかまってくれないんだから」 「そりゃ赤ちゃんなんだから仕方ないと思うんだけど……」  小学四年生のはずなのに、この少女は随分と幼いし考えが浅い。赤ちゃんの妹につきっきりの両親にイライラするのはいかがなものか。赤ちゃんだから、ほんの少し目を離しただけで危ないこともある。彼女のお母さんは聞いている限りかなり頑張っている様子だ、なんて育児を乳母に任せっきりにしないでほぼ自分でやろうとしているのだから。  父親も父親で、仕事で忙しいはずなのに休みの日はなるべく母親の代わりに次女の面倒を見ているという。二人共かなり年を取っているようだし、けして楽ではないはすだというのに。  今まで一人っ子で甘やかされて育ってきた彼女には、なかなかそういう苦労が理解できないようだ。 「ていうか、そういうあんたはどうなのよ。早く帰らなくていいわけ?」  忠告する僕を、ギロリと睨む鈴花。
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