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「仙人?金原武?この人がさっきの人?」
「ああそうだよ、おばあちゃんが空に向かってお祈りしていたら、やって来たんだよ。わたしの希望を叶えてくれるってね」
「あの人、肩に鳥がとまっていたでしょ、黒くて嘴の長い?」
「癪と言う名前らしい。さあそろそろ帰りなさい。私の時間もぼちぼち終わりだから。最後に主人と釧路の場末の酒場で踊ったうぬぼれワルツを聴きながら眠りましょう」
二人は敏子が疲れたのだと気を使いその日は帰った。その晩も食事はとらなかった。担当看護師が部屋まで運んでくれたが持ち帰らせた。天命は明け方前だと知らされた。信じていいのかどうか分からないが死ぬ前にご褒美をくれると言う。敏子はドレスに着替えた。そしてレコードプレーヤーにワルツを載せた。敏子が一人で踊り出す。すると窓が開いて紳士が現れた。
「あなた」
微笑んでいるが返事はない。敏子の手を取り踊り出す。
「♪ラッタッタ ラッタッタ うぬぼれワルツ♪あんた男前、あたしいい女♪」
敏子は口ずさみながら頭が男の肩に乗った。最高の天命を迎えた。
美麻と勝馬は敏子との約束通り実家の縁側の前に二本の桜を植えた。苗木の下には忘れずに名刺を置いた。実家の名義を見て驚いた。美麻と勝馬の名義になっている。そして二人は従妹同士だが10年後に結ばれ敏子の実家に暮らすことになる。
「でも誰なのかしら金原武って」
「名刺には仙人て書いてあったね」
「それにしてもきれいに咲いている」
「ああ」
了
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