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輪廻Ⅱ『忌憚』
50年連れ添った主人に先立たれた。坂上敏子、今年喜寿になる。子供は女ばかり四人で全員嫁いで行った。幸いなことにそれぞれが裕福な暮らしをしている。親にとってこんなに安心することはない。主人は銀行員でそれなりの財を残した。元々親の代から継いだ土地であるが継ぐ者がいない。娘達もそれぞれが持ち家に暮らしている。
「土地を売ります」
長女の香織に電話を入れた。
「どうしたの、お母さん急に?」
「老人ホームに入ろうと決めたんだ。土地は二億で買ってくれるらしい。月々40万円の高級ホームなんだ。単純に計算しても40年分はあるから安心だよ。まさか120歳まで生きることはないと思うが、お前達に迷惑は掛けない」
「どうしてお母さん、うちで暮らせばいいじゃない。里見も裕子も愛子もみんなお母さんと暮らしたいと願っているのよ。それぞれのご主人もみんな歓迎してくれているのにどうしてなの?」
「お母さんは一人で悠々と暮らしたいんだよ。もし予定より早く死んだらお前が財産を分けてあげてね」
「みんなお金なんか欲しくないわ、お母さんと暮らしたいの」
「私が嫌なんだよ。分かってね」
敏子は電話を切った。翌日娘達が集まって家族会議を開いた。
「電話でも言ったけどお母さんが土地を売って高級老人ホームに入るらしいの」
喫茶店のテラスで四人が集まった。四人が集まるのは3年振りである。父親の葬儀以来である。
「ところで世田谷の実家を継ぐ人は居ないかしら。裕子の旦那さんは物書きだからいいんじゃない」
「だめだめ、うちの人はマンション派だから。コンクリートの壁に囲まれていないとイメージが浮かばないらしいの。それに五年後にはロスに移住する予定なの」
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