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「いいかい、これから大事な話があるからようく聞いておくれよ」
二人はベッドに腰を下ろした。
「本当はおばあちゃん、お前達や娘達と一緒に暮らしたかったんだよ」
美麻が泣き出した。勝馬がハンカチを出した。
「今からでも遅くないよおばあちゃん、うちに来れば」
「うちでもいいし」
「二人共やさしいねえ。でもねこれは主人と約束したことなの。どちらが生き残っても家族の世話になるのは止そうってね」
「どうして?おばあちゃんがお母さん達を生んでそれから私達が生まれた。おばあちゃんが一番偉いんだよ、遠慮なんか要らないんだよおばあちゃん」
美麻は敏子の手を握る。その手を敏子が擦っている。
「主人はね、もしどちらが先に逝ってもそれで終わりにしようと口癖のように言っていた。一人になったら一人で生きるのが人生。お前達の誰かに世話になると言うことはお前達の時間を奪ってしまう。それだけは絶対に止めようと主人と約束していたんだよ。だからおばあちゃんはこのホームを選んだんだ。娘と孫に囲まれて生きるより、主人との想い出を大事にしたいんだ。そうでないと天国の主人が可哀そうでしょ」
「おばあちゃん」
美麻が頷いた。
「おばあちゃんの考えはよく分かったよ。僕も好きな人が出来たらおばあちゃんやおじいちゃんのように生きてみたい」
勝馬が敏子の価値観に賛同した。
「そうかい、ありがとう。それでお前さん達にお願いだよ。実家はさっきまでいた方が買い戻してくれるそうだ。自由に出入りしていいし、自由に使っていいと言ってくれた。縁側の前に桜の苗木を二本植えて欲しい。右はおじいさんで左はわたしだよ。必ずお前達の手で植えておくれ。植える時にこの名刺をそれぞれの苗木の下に敷いておくれ」
敏子は名刺を出した。
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