青空の下、手を振って。

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一体、あの子達は何をやっているのだろう。 口をぽかんと開け、私は目の前の光景を見つめる。娘を含む4人の園児たちが皆、走りながら懸命に手を振っている。応援席に向かって。 「違うんだ、もも。手を振るっていうのはバイバイじゃなくてだな…」 隣で夫が情けない声を出した。 なるほど、そういう事か。思わず私は吹き出してしまう。 娘が産まれてから、これまで何度呟いたことだろう。 『違う、そうじゃない』 ほしぶどうはお星様のブドウじゃないし、雨の日には太陽はびしょびしょにはならない。 「すごいよね、子供って」 満面の笑みでゴールに駆け込んでいく娘を見ながら、私は呟く。 「え?」 「こんなこと、大人じゃ絶対に思いつかないじゃない?」 普通、かけっこで「思いきり手を振れ」と言われたら、前後に腕を振る方を思い浮かべるはずだ。間違っても、走りながらバイバイなんてしない。 きっとあの子達の日々は、毎日が発見の連続で、キラキラと輝いているのだろう。そんな、ちょっぴりおかしな「特別な一日」を繰り返し、彼らは大人になっていく。 だけどもし、大人になったあなたが「普通」や「常識」の中で生きる事に息苦しさを感じたならば。 私は願わずにはいられない。どうか、「普通」や「常識」の外側で過ごしたこの時が、宝石のような胸の煌めきが、あなたを支え、導く力となってくれますように、と。たとえその時この日々が、積み重なった記憶に押し潰され、ぺちゃんこになっていたとしても。 「ママ!」 両手を広げ、私は受け止める。誇らし気な顔で飛び込んでくる、小さなあなたを。
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