飛行する天狗

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「もっと幼い頃に一度、人里に迷い込んだことがあった。子どもたちは俺を捕まえていじめた。その時一人の女の子がやってきた。五歳くらいの小さな子だった。彼女は俺をいじめてた奴らにやめろと声をかけた。だが奴らは辞めなかった。そしたらその子は大人を呼んできた。大きな身体をした男の人が、俺をいじめていた子どもたちを追い払ってくれた」  そこで私は思い出した。すっかり忘れかけていた記憶を。  幼い頃、家のそばの空き地で小学生が五人ほど円になって何かをしていた。最初は遊んでいるのかと思い仲間に入れてもらおうと近づいた。だがまもなく彼らが誰かをいじめているのだと分かった。輪の中心にいたのは黒い着物を着た十歳くらいの少年だった。高学年の小学生たちは、やめてくれと泣き叫ぶ彼を容赦なく蹴りつけたり殴ったりしていたぶっていた。 「やめて!!」  何度叫んでも彼らは辞めなかった。力で敵わないことは分かっていたので、私は家に駆け戻って父を呼んだ。大工をしていて大柄で腕っぷしの強い父は、瞬く間にいじめっ子たちを追い払った。 「大丈夫か?」  父は少年に声をかけ家に連れて行った。玄関の前まできたとき、彼は初めて私の方を見た。黒く輝く大きな目をしていた。身体は傷だらけで、唇の端には血が滲んでいる。私たちは何も言葉を交わさなかったが、彼が悲しんでいるのだということだけ分かった。  居間には母がいて彼の姿を見るなり、「あらあら大変」と声を漏らし、居間で手当てをしてやった。そのあと母は少年にできたばかりの夕飯をご馳走した。母が皿を洗いに、父が風呂に、私が手洗いに立って戻ってきたとき、少年の姿はすでになかった。
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