飛行する天狗

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「ここでお別れだ」  少年が振り返って目を細めた。私も続いて背から降りた。 「ありがとう」  二人にお礼を言って手を振り歩き出した。途中突き当たった行き止まりの壁に梯子が立てかけてあった。それを一段一段上り辿り着いた先は、どこかの家の床下だった。穴から這い出して大きく息を吸った。振り向くと、いつの間にか穴は消えていた。  匍匐前進をして床下から出た。建物の周りには砂利が敷かれている。そこは家から五分も離れていないところにある神社の境内だった。神社から見渡すことのできる海の地平線には茜空が広がっていた。  ふと賽銭箱に目をやると片隅に赤蜻蛉が一匹止まっていた。心地よい風が通り過ぎた。  私はその日あったことを、誰にも話さずに心の中にしまった。
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