二人にならない

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ーBー 「ここで合ってるのかな」 そんな呟きは誰に届くともなく宙に浮かんで消えた。目の前にある扉には小さな文字で 写真館KOYANAGI と書かれている。こんな小さい文字誰が気づくんだろう、と思いながら中に入った。受付の女性が「ご予約ですか」と声をかけてきた。客と思われているらしい。訂正しようとしたところに扉の開く音がした。 「まあ入って。カメラとかあるからお茶は出せないけど」 彼は言った。僕は黙ってそちらに向かった。 「優作くんだよね、連絡をくれた。」 彼はご丁寧に印刷された僕のメールの文章を机の引き出しから引っ張り出した。 「小柳一郎です。雑誌の撮影監督をやってます」 と明らかに年下の僕に頭を下げてきた。
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