拾い物

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拾い物

  「なんだぁ? ガキが泣いてんのか?」  こんな人里離れた家で子どもの泣き声が聞こえるなんてまず無いことだ。それがセナの耳にはつんざくように聞こえてくる。 「うっせぇな、どこのガキだよ」  きっと雪景色を見に来た家族でもいるのだろうと、窓のカーテンをちらりと開けた。周囲にぐるりと意識を飛ばす。 「人の気配、ねぇけど」  正確には団体さんの気配という意味。 「ふん、ガキんちょが一人。それもちっちぇヤツ」  仕方ないからコートを着込んだ。ヴァンパイアと言えども寒さは堪えるし、風邪を引くと人間より厄介だ。 「俺も物好きだな」  そんなことを呟きながらセナは玄関に向かった。  遠出をする必要はなかった。玄関のポーチを下りる必要すらない。  ドアを開けたすぐに段ボールが置かれている。僅かに積もった雪。その中から弱弱しく聞こえる赤んぼの小さな泣き声。にょっと爪が出そうになるのを押さえて段ボールを小脇に抱える。  テーブルにおいてその小さな箱を開いた。 「なんだ、お前?」  箱の中の小動物を見る。雪を含んで濡れた段ボール。真っ白なバスタオルに(くる)まれたその声は実際には弱弱しい。メモが一枚。 『おねがいします』 「お願いだってさ。お前、捨てられたの?」  引っ張り出した赤んぼのバスタオルはとっくに濡れていて、引っぺがすと小さな体は冷え切っている。 「おっと」  またにょっと突き出そうになる爪を意思の力で引っ込めた。 「危ない、危ない」  お腹はそこまで減っていないのだ。それでも目の前におやつがあれば手を出してしまうのがヴァンパイアだ。というか、人間でもそうなのではないだろうか。 「取り敢えず……」  暖炉からちょっと離した場所に大きなラグを引っ張っていった。そこに素っ裸にした赤ん坊を横たえる。 「さっきよりあったかいだろ?」  赤んぼなど縁も無ければ興味も無い。だから仕方なくインターネットを開いた。 『赤んぼ』と入れて、画像サイトを見る。 「へぇ! いっちょ前にこんなに服があんのか」  次々と画像を覗いて、さっきのバスタオルに包まれた姿に似たものをいくつか見かけた。 「ふぅん、要するに包んどきゃいいんだな」  バスルームからバスタオルを持ってくる。セナの使うバスタオルのサイズは大きい。それで包んでやると泣き声がちょっと静かになった。  セナはさっきの読書の続きに戻った。ロッキングチェアが静かに揺れる。  
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