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少し経って「そうだった」と赤ん坊を覗く。静かになっているから寝ているのだと思っていた。
「……なんかぐったりしてる?」
抱えると、バスタオル越しに熱が伝わってくる。
「え、お前病気?」
その時、赤んぼが自分の指を縋るように握ってきた。
「ちっちぇ!」
人差し指を握るその手は、懸命に生きている証をセナに伝えてくる。
「どうしたらいいんだ?」
途方に暮れたセナは、最近かけていない電話を手にした。
『セナ? なんの用? 最後に会ったときは「二度と会うか!」って怒鳴られたんだけど』
「ちっちゃいことに拘るなよ! それよか、赤んぼのこと教えてくれ」
『赤んぼ? なんで?』
「俺んとこにいるんだ。なんか病気みたいで」
『最っ低! あんたヴァンパイアのクセに赤んぼなんか作っちゃってんの!?』
「俺んじゃねぇよ! 玄関の前に捨てられてたんだ、なんか分かんないけど多分死にかけだ」
『ばかっ! それ先に言いなさいよ! 今行くから!』
ガチャン! と切られた電話に牙をむく。
「てめぇ、今度そんな切り方しやがったら血を全部吸い尽くしてやるぞ!」
だがそんなことは出来ないだろう。雫には世話になることが多過ぎる。町の本屋の次女、物を知り過ぎて冷めている21の女の子。
待っている間にバスタオルが濡れていることに気づいた。
「なんで? 乾いてたはずなのに」
その原因がおしっこだということが分かって牙が伸びそうになった。
「くそっ、俺のバスタオルが!」
だがどんどんぐったりして行くその生き物にささやかに心が動く。さっきの指は可愛かった……
「しょうがねぇ、もう一枚持ってくるから待ってろ」
濡れたバスタオルを剥がしてラグに赤んぼを置くと、洗濯機に放り込みスイッチを入れた。新しいバスタオルを持っていく。
「あれ? ちょっとヤバいみたい?」
体が紫色になり始めている。チアノーゼという症状なのだが、セナに分かるわけが無い。
ちゃんと包み直すと、仕方なさそうに牙を伸ばして自分の小指の先をちょっと噛み切った。
「怒られるだろうなぁ、でも『人命救助』ってヤツだし、『応急処置』ってヤツだし」
そうブツブツ言いながらたらっと1滴赤ん坊の口に落とした。砂漠に落とした水のように吸い込まれていく深紅の血……
みるみる赤ん坊の血色が良くなっていく。
「やべっ、やり過ぎたか? おい、そんなに元気になるな!」
辛うじて唇についている血を拭き取った。
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