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セナが慣れるまで、雫はほぼ毎日来た。口は悪いが面倒見はいい。
「泣き止まないんだけど。うるせーったらない」
雫に文句を垂れたが、眠れないという苦情は生まれない。多少体が楽にはなるから目を閉じるが、いくらも寝ない。夜電気を消せば人間っぽく見えるから消している。夜目は利くから読書にも困らない。
「ちゃんと面倒見てる?」
「ミルク、やった。おむつも大丈夫だ。棘もねぇ。なにが不服なんだか」
確かにラグの上で赤ん坊は泣いている。その両手両足を空をかくように精一杯ばたばたと動かしながら。
雫は抱き上げた。
「よしよし、どうしたの?」
雫の胸に頭を預けた赤ん坊は大人しくなり始めた。
「なんだ? 泣き止んだぞ」
「こうやって抱いてる?」
「抱く? なんで」
「赤ちゃんって……寂しがり屋なの。人肌が恋しくても泣くのよ」
「独身男じゃあるまいし」
「いいから抱いてみて」
セナの両手に赤ん坊を押し付けた。いかにも慣れない不器用な手つきでセナが抱く。赤ん坊はまたぐずり始めた。
「私がやったみたいに赤ちゃんの耳を胸につけて。赤ちゃんはね、人の鼓動を聞きながら眠ったりするの」
「俺、人じゃねぇし。鼓動出すの面倒くせぇ」
すかさず雫の蹴りが尻に入る。こう見えても雫は空手二段だ。
「いってーな! もうちっと女らしくなれねぇのか? 第一なんでそんなに赤んぼのこと分かるんだよ。あ、いつの間にか産んでたとか?」
もう一発さっきよりキツい蹴りが入った。
「お姉ちゃんのとこの赤ちゃんを時々世話してるの! 変な想像しないでくんない?」
「その足癖、直せよ。黙ってりゃ可愛いのに」
「あんたに褒められても嬉しくない。鼓動くらい出しなさいよね!」
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