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雫はヴァンパイアというものを初めて間近で見た。
「普通の人に見える……」
そう呟いた娘を秀太朗は「失礼だぞ!」と叱った。
「いいですよ。ふつーの人に見えなかったら俺、狩られてるんで」
ケロっとした言い方に思わず笑いが漏れる。
リビングに案内されて、みんなは瀬名にコーヒーを振舞われた。
「美味しい!」
雫が目を輝かす。コーヒーに目が無い。
「そりゃ良かった」
「食事作ったりするんですか? それとも血を飲むだけ?」
「雫!」
冷や冷やものの質問だ。ヴァンパイアの食事は人間の血に決まっている。
「俺、シチューなら得意だよ」
「わ、人間と同じもの食べるんだ!」
「食べるけど。腹減るし」
ヴァンパイアの空腹は人間と変わらない。問題は、『飢餓』だ。ヴァンパイアの本質を揺るがす本能から来る飢餓。
そんなデリケートな問題に足を踏み入れたくない秀太朗は、急いでコーヒーを飲み終えて立ち上がった。
「とにかく娘をありがとう。なにか困ったことがあったら頼ってください。私は町で本屋を開いているから」
セナの目が見開き、嬉しそうに輝いた。
「俺、すごく本が好きで。じゃ、注文したら売ってくれる? 今まで遠くに足を伸ばしてたんだけど」
「もちろん喜んで! なにせ商売ですからね。いつでも電話ください。入荷次第届けますから」
秀太朗は電話番号を教えた。
「今欲しいのがあるんだけど。頼んでもいい?」
「どうぞ」
セナは奥にリストを取りに行った。
「ね、変わったヴァンパイアね。文化的だし、料理作るんだって!」
「雫、お前は好奇心が過ぎる。必要以上に近づくんじゃない」
「父さんだって本を届けたりするつもりでしょ?」
「それは商売だ。第一栞を助けてもらったんだ、その恩は忘れちゃいけない」
雫はセナをもっと知りたいと思った。こうして雫はセナに付きまとうことになる。
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