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諸手続き
ところで赤ん坊。この子にはまだ名が無い。拾われて二週間経つが、一向に名前を付ける気配のないセナに雫は業を煮やした。情もわき始めている、なんとかしてやりたい。
「この子拾ってからもう二週間経つんだけど!」
「そんなに経つか?」
「経つわよ。どうする気なの?」
「どうするって、何を?」
「名前! 先に名前つけなくちゃでしょ!」
「こいつに?」
「そうよ、名前つけて、役所に行って届けだして」
「役所ぉ?」
セナには縁のない場所だ。というより、避けていると言っていい。
「父親として戸籍作らないと」
セナは目を剥いた。
「俺、父親じゃねぇし!」
「何言ってんのよ! それが目的で子育てするのに!」
「うわ、俺一人に責任おっかぶせんのかよ」
「この子があんたを救ってくれるのよ、それくらいしなさいよ。可哀そうじゃないの!」
雫が本気で言ってるらしいことに気づいたセナは、真剣に悩み始めた。
「ヤバくなったら日本を出るって手もあるし」
「今じゃ世界のどこに行ってもヴァンパイアは金持ちのターゲットでしょ」
「中国の奥地の方とかモンゴルとか。どうにでもなるよ」
「じゃ、何で日本に来たのよ」
「……観光がてら」
「なにそれ」
「知ってるやつが一度は住んでみろって言うから来たんだ」
雫は開いた口が塞がらなかった。
「……呆れた……そんなんでこんな危険なとこに来たの?」
「そうだよ。だから日本のあちこちに旅行してた、この赤んぼを拾うまでは」
雫は考えた。放っておいたらこの子育てを知らないヴァンパイアは何もしないだろう。尻を叩いてでもこの子の面倒をしっかりと見させなければならない。
「いい? 今日中に名前を決めましょ! それから明日は役所。ついてってあげるから手続きするの。分かったわね」
「えええ、面倒くせぇ!」
雫に叱咤されて、セナは名前を考え始めた。
「えっと、雪」
「この子、男の子」
「白」
「雪から離れて」
「冬」
「季節から離れて」
「……尽きた」
「あんた、頭いいじゃない! 本だってたくさん読んでるんだから名前くらい考えて」
「俺の読んでるの専門書ばっかだし」
「いいから! 『祐司』って名前は自分で決めたんでしょ?」
「日本を紹介してくれたヤツが付けてくれたんだ、こっちの戸籍とかの偽造もしてくれて」
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