14人が本棚に入れています
本棚に追加
【2】
そんなある日。
「あれ、君初めてだね?」
上級生に荷物運びを頼まれて訪れた研究室で、スーツ姿の若い男がソファに座っていた。世慣れない俺の目にも隙のない、いかにも洒落た装いの。
「今年の一年生ですよ。……柘植、この人は『Colorful Saw』のデザイナーで蓮さ、……唐沢さん。うちの卒業生でこの研究室出身なんだよ。今日はこの近くまでいらしたからって」
先輩の紹介に、俺は慌てて頭を下げた。
「は、はじめまして。柘植 希です!」
Colorful Sawは、規模は大きくはないが業界では個性的な才能の持ち主が集まるので有名なデザイン事務所だ。
もとは東京都心にあったのを、数年前にオフィスを地方都市に移転したらしかった。
今時デザインなんてデジタルメインで、大抵データでネット上の受け渡しが可能だ。とはいえ、やはり打ち合わせ段階は「顔を見て」のケースも多いのか。
とりあえず現在の事業拠点からこの大学までは、距離的にはさほどではない。
実績のある彼でも、呼びつけるのではなく打ち合わせに出向くのか、と社会の仕組みなどまだよくわからない俺はぼんやりと考えていた。
最初のコメントを投稿しよう!