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    ◇  ◇  ◇  プロになるんだ。絵を描いて生きて行きたい。  夢みたいな話。  それが如何に『夢』なのかさえ、俺はわかっていなかった。本当に子どもだった。  高校を卒業して、地方の実家から一番近い都会の近郊にある芸術大学に入学した。それなりに名は通っているけど、決して名門とまでは言えない私立大。  それでも、俺は前しか見ていなかった。無限だと信じていた未来だけを。  だけど意気揚々と乗り込んだそこは、別次元としか思えない場所だった。ついこの間まで暢気な男子高校生(DK)してた、世界の狭い俺には信じられないような。  そう、『世界が狭い』なんてことにさえ初めて気づかされたくらいに。  小さいころから絵が好きで、上手いと言われてその気になっていた。  大学に入って、自分とは比較するのも躊躇うような、まさしく『ステージの違う』才能の持ち主を目の当たりにして俺は打ちのめされた。  いや、それさえ認めたくなかった。「専門違い」だからこそ、純粋に俺の絵を褒めてくれる和泉さんが唯一の救いだったんだろうか。    俺の気持ちが彼へと急激に傾倒していったのも、ただ縋りたかっただけなのかもしれない。
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