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一般的にはともかく一部では確実に知られた彼が、「十八歳の学生に飲酒させた」なんてスキャンダルの種だ。
特に、蓮の成功を面白く思わない連中にとっては、足を引っ張る格好のネタになりかねない。
俺にしたって、まだ何も始まっていないうちからわざわざ自分の未来の可能性を狭める気なんかないから、そのへんは気をつけてたんだ。
案外小さな世界で、初っ端から「ああ、あの『Colorful Saw』の唐沢の炎上相手の……」が枕詞につくなんて冗談じゃないからな。
蓮が話してくれる実際のデザイン現場に関わるあれこれは、大学での基礎さえ禄に身についてない俺には興味深いことばかりだった。
彼の所属するColorful Sawにも行ってみたかったし、口に出して頼んでもみたけど、蓮は気が進まないようで「まあ、またな」とはぐらかされてしまった。
仕事場に学生が物見遊山で顔出すなんて、『プロ』には不快なんだろうな、って俺もそのあたりは納得してたんだ。
……ただ食事しながら他愛無いお喋りをするだけのそんな時間は、すぐに変質してしまう。
店を出て何ということもなく別れて即大学の寮へ帰ったのは、最初の一度だけだった。
「柘植くん、ちょっと歩かないか?」
「レイトショーやってるんだ。あれは勉強になるから、希くんも観た方がいいよ」
そんなのは二人の時間を伸ばす口実でしかなかったのも、気づかなかったわけじゃない。
俺を最初に「可愛い顔」と言ったように蓮は俺をそういう目で見ていたし、俺も薄々それを承知でついて行ったんだから。
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