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言われた通りにトイレに行って手を洗ってから、私達はランチを食べるためにコーヒーショップを出た。カエラは数歩後ろを付いてくる。会話をしながら一緒に並んで歩く気はないみたいだ。本屋の前を通ると、矢野明日香の漫画が山積みになって売られていた。ポップには5000万部突破と書かれている。私は頭の中で印税を計算しながら歩いていた。
「パパは今も漫画を描いてるの?」カエラは私を見上げながら言ったが、その時の顔が妙に幼く見えて子供の頃を思い出してしまう。
「描いてるよ」
「雑誌は何?」
「……連載はされていない。でも描いてる」
カエラの言葉や表情に父を馬鹿にしている様子は無い。純粋に心配しているみたいだ。
「ママが今度また新しく連載が始まるらしくて、でも全然人手が足りないからアシスタントを募集しているんだよ。応募してみたら?」
「冗談だろ」私は鼻で笑っていた。
「変なプライドは捨てた方がいいよ」
「できるわけないだろ」
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