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16話目
「15話を読みました。こんなことは言いたくないのですが、当時の僕の絶望があまり伝わってこないです」賢也は15話目にして初めてダメ出しをした。
「具体的に指摘してください。描き直しますので」
「……」
「もしもし? 聞こえていますか?」
「……」
賢也は黙考していた。セリフを忘れて台本を読んでいるのかもしれないと思うと、笑いそうになってしまう。
「大村さんに気を使う必要はないですよ」賢也が話し始めた。「相手が編集長だから遠慮しているのですか? 彼に読まれる心配なんて無いのだからいいじゃないですか。それともアレですか。もしかすると自分の作品としてこの漫画を発表することになるかもしれないから予防線を張っているのですか?」
「そんなことないですよ」
「大村さんがいなくなったら、もっと本気で描けます?」
「いなくなるって、何ですかそれ」
「邪魔なら僕が始末しますよ、という意味です」
「そういうことなら、お願いしたいですね」
「……わかりました」
私の予想外の反応に賢也は言葉を詰まらせていた。この後、明日香と作戦会議を開いて、台本の変更を余儀なくされることだろう。
「それでは16話の内容をお伝えします」
「お願いします」
「僕の小説が大村さんにパクられたことをロイ先生に告白しましたよね?」
「はい」
「その後に先生は編集部まで足を運んで大村さんに抗議しました。その時のやり取りを克明に描いてください」
「なるほど、そうきましたか」
「16話はそれだけです。別に15話を描き直してほしいとは言いませんので、16話で一気に挽回してください」
「はい……分かりました」
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