16話目

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 そして金曜日。三浦邸に完成した16話を届けたが相変わらず無人である。私は二階に上がると、大村のバラバラ死体が置かれていた部屋を探した。 「うっ!」ドアノブを握りしめた私はドアに衝突していた。前回は開いたはずのドアが施錠されており、顔面をドアに強打。鼻血こそ出なかったが頭がクラクラしていた。  きっとこの部屋だ。フェイクの遺体を置いて撮影したが壁や床を血で汚してしまい、まだ清掃が済んでいないのかもしれない。  頭を押さえながら地下室に向かい、スマホのライトを点けてから暗闇に身を投じた。いつもなら耳鳴りがするくらいの静寂に包まれているのに、今日は低い振動音があった。冷凍庫からだ。電源がONになり、闇の中で小さな赤い光が浮かんでいる。  そういうことね。私はすぐに理解した。中に大村のフェイク遺体が入っているのだろう。 展開が読めてしまった。興ざめである。もっと趣向を凝らしてくれないと、ホラー漫画家を怖がらせることなんてできないのに。  南京錠を外して上開きのドアを持ち上げると、冷凍庫の中の照明がついて周囲が明るくなっていた。予想通りである。ビニールに包まれた四肢が並べられていた。何重にも巻かれた半透明のビニールを凝視すると、口を開けた大村の顔が浮かび上がってくる。内臓は透明度の高いジッパー付きの袋に小分けされていた。お金の入った封筒はそれらの下敷きになっていたため、一つずつ脇に動かしてからようやく手に入れるのだった。ビニールを通して体の輪郭が指先に伝わってきた。ずっしりと重く、かなり精巧に作られている。頭部は両手を使わなければ持ち上げられないくらいの重さで、指を滑らせて一度落としてしまった。  底にある封筒を掴んでから勢いよくドアを閉じると、脇に寄せた大村の四肢が冷凍庫の中で音を立てて崩れていた。
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