17話目

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 別れ際に意味深なことを言うのは反則である。私は悶々としていた。何をしても集中力が続かない。大便をしてケツを拭いている時でさえ、賢也の最後の一言を考えていた。今なら自動車を運転すれば信号無視で捕まるだろう。このままでは漫画を描く気が全く湧かない。この悩みを解消すべく賢也にもう一度電話を掛けてみるが、通販の解約をする時のように、電話が繋がる気配はない。  まさかあの大村の死体は本物で、私に罪を擦り付けるのが賢也の本当の目的だったのではないだろうか? これこそが私に対する賢也の復讐だったのではないか? そんなことを考えると体中から汗が吹き出し、眠りが浅くなるのだった。  佐藤に電話すればきっと「しつこいですよ」と嫌がられるだろう。しかし誰かに疑念を払拭してもらわなければ、もはや前に進めない状態になっていた。佐藤の携帯に電話するが、コイツもまた電話に出る気配がない。着信拒否にするという佐藤の言葉をようやく思い出す。 「クソ!」  カエラが留守であることをいい事に、私は絶叫しながらクッションに拳をめり込ませた。この程度で払拭できるレベルのストレスではないが、黙っていたらおかしくなりそうだ。  編集部に直接電話をすると、名前は忘れたが聞き覚えのある声をした編集者が電話に出た。 「私は渡辺ロイというものですが、佐藤拳士朗さんはいらっしゃいますか?」 「ロイ先生ですか。どうしたんですか?」 「佐藤君と電話を替われます?」 「あいつはもう退職しましたよ」 「え?」 「あまりにも突然だったので驚きましたよ。まあ使えない奴だったので清々しましたけど」 「どこにいるか知ってますか?」 「直接聞いたわけではないですけど、たぶん明日香先生の所じゃないですかね? マネージャーみたいな事をしているのかも。あいつにはそれが似合ってますよ」
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