17話目

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 最後にもう一度だけ佐藤の言葉を信じることにしてみよう。彼が明日香の元で働いているのなら、ドッキリは継続中とみなしていいはず。私はいつもどおりに漫画を描けばいい。金曜日にそれを三浦邸に持ち込む際にドアが開けば、全てが私の考えすぎということになる。  遅れを取り戻さなければいけない。朝までネームを描き続けた。実際に自分が犯行に及んだかのように細密に描くことができて驚いていた。これを警察が読んだら、本当に自分が犯人にされてしまう気がしていた。   こんな内容を描いて本当にいいのだろうかという疑問が湧き上がる。なんで自分を犯人に仕立てないといけないんだと。  夜明けと同時に睡魔が襲ってきた。もう寝よう。目覚めた時に、すべての物事が良い方向に向かっていますようにと願いながら目を閉じた。  昼過ぎに目覚めると真っ直ぐ冷蔵庫に向かった。カエラはチンするご飯とレトルト食品を食べてから登校したらしく、台所には水の張られた茶碗が置かれていた。十代の少女にこんな食生活を続けさせるわけにはいかない。しかし朝食を作る時間や体力が私にはない。  今のライフスタイルはそろそろ潮時かなという思いが不意に込み上げてきた。たとえこれがドッキリであったとしても、子供にこんな食生活を続けさせるわけにはいかない。  賢也には十分に稼がせてもらった。契約を打ち切った場合は、原稿料の半分を返すという約束だったが、それでも十分に残る。原稿は戻ってこないが、そんなことはどうでもいい。   自分を犯人扱いする漫画なんて描かずに、このまま関係を終わらせてしまうのが最高のタイミングだ。  これまでに全部で16話を描いてきた。更新手数料を含めると1700万円を稼いだ。その半分である850万円を返金すればいいのである。税金で半分を取られたと思えばいいのだ。  私は途中まで描いた17話を引き出しの中にしまった。このまま金曜日が来れば全てが終わる。気がかりなのは三浦邸に指紋が残っていることだけ。  着々と締切日が迫ってくるのは非常に居心地が悪い。夜型の体内時計が機能し続けているため朝まで眠れない。ベッドに入って何もしないで天井を見上げているだけなら、漫画を描いていたほうがマシな気がしてくる。  大村を殺害して解体する人物の顔を私ではなく賢也に似せて描いたら、一体どんな反応するのだろうと思い始めると居ても立ってもいられなくなり、結局は机に向かってしまうのだった。ニット帽を被って無表情な賢也が猟奇的な殺人を犯す場面を私は嬉々としながら描いていた。
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