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確かに変なプライドである。明日香は自宅と作業場が一緒であるため、そこで働けば毎日カエラと会えるのだ。コンビニで年下の店長に顎で使われるのと、元妻の下で働く事にそれほど違いはないだろう。
「世間にはヒモになりたがっている男が山ほどいるのに」カエラは歩きスマホしながら話しているが、画面はさっきからずっと変わっていない。
「一緒にしないでくれ」
「私に近づいてくる男はそんなのばっかりだよ。私のママが漫画で稼いでいる事を知っていて言い寄ってくる。ただサインが欲しいだけの人もいるけど」
「そんな男は相手にするな。プライドを失ったら人間は終わりだ」
「逆にプライドが高すぎて駄目になる人もいるじゃん。例えば自分のアシスタントだった妻が自分よりも売れてしまって不貞腐れてしまう人とか」
私は何も言い返せなくなって顔を赤くしていた。私の心理状態なんて彼女たちの前ではとっくにお見通しなのだ。
「ここでいいよ」カエラはハンバーガーのファストフード店を指差した。
「もうちょっと良いものを食べよう」
「いや、ここがいい」
カエラはきっと私の貯金が底をついていることを、明日香から聞いて知っているのだろう。当時は妻と通帳を共有していたため、残高はバレている。離婚した日からマンションの家賃を毎月差し引いていけば、今頃は金欠になっていると思ったに違いない。
実際は三浦賢也の臨時収入があるのだが闇営業である。税金の発生しないお金だ。そんなことは相手が家族であろうと話すわけにはいかない。
私は娘とささやかな時間を過ごすと、後ろ髪を引かれながらマンションに戻るのだった。
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