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18話目
電話だ。賢也から。そりゃ掛かってくるだろう。シカトしたいがそれでは社会人失格である。きちんと話し合って終わらせよう。これが明日香の仕掛けたドッキリで私の振る舞いを皆が観察しているのなら、高校生のアルバイトみたいな辞め方をすれば笑われてしまう。
「もしもし」私は渋めの声を絞り出した。
「先生……僕は残念です」
「私も同じ気持ちですよ」
「何が嫌だったんですか?」賢也の声は震えていた。迫真の演技だ。
「自分を犯人として描くことに抵抗がありました」
「フィクションなのに?」
「嫌です」
会話が途切れた。私は賢也の次の言葉を待っていた。
「それでは僕が大村さんを殺害した犯人ということで漫画を描いてください。それならいいですか?」
「……もう止めにしませんか?」
「どうしたんですか急に……そんな事言わないでくださいよ」
「疲れました」
「疲れない仕事なんてあるんですか? 先生は疲れたなと思ったら、相手の立場を無視して一方的に切り上げてしまう人なんですか? そうやって離婚したんですか?」
「あなたにそんな事まで言われる筋合いはないです」私は感情を必死に抑えていた。
「先生……持ち込みしてもいいですか?」
「意味が分からないです」
「この作品を出版社に持ち込んでもいいですか、という意味です」
「駄目に決まってるじゃないですか!」私の心臓はキュッと縮んでいた。
「それじゃネットにアップしようかな〜。先生が僕の小説をパクって漫画をヒットさせたという事実が世間に公表されますよ」
「始めからそれが目的だったんですか?」
「僕だってこんな事はしたくないですよ」
「もう止めましょうよ。ドッキリなんですよね? 知ってますよ」
「え? 何のことですか?」
「明日香に指示されて私にドッキリを仕掛けているんですよね?」
「ちょっと意味が分からないです」賢也がニヤけながら喋っている事が声の調子から伝わってくる。
「しつこいですよ」
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