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「ママ、大丈夫だよね?」
「もちろんだ」
「佐藤って編集者じゃなかったの?」
「編集者だよ。上手く忍び込んだみたいだ。俺が馬鹿だったんだ。佐藤の言葉を信じていた」
「なんて言われたの?」
「これは明日香が仕掛けているドッキリだから、黙って引っ掛かってくださいと」
「……私も同じことを言われていたんだけど」明日香の顔から血の気は完全に失せていた。
「え?」
「ママがパパに仕掛けているドッキリだから、わざと引っ掛かってくださいと言われた。話したかったけどずっと言えなかったんだよ。完全に馬鹿じゃん、私たち」
「俺のスマホから三浦賢也に電話してくれ、ハンズフリーで」私はハンドルを片手で操縦しながら、ポケットからスマホを取り出して渡した。
「うん」
カエラはスマホの履歴から賢也の名前を見つけ出すと迷わずに押した。ワンコールが鳴る前に賢也の声が車内に響いていた。
「先生、かなり焦っていますね。今は明日香先生の家に向かっている途中ですか?」
「なんで、そう思う?」
「別に思っているわけじゃなくて、先生の位置情報はこちらに筒抜けですから」
「車に発信機を仕掛けたのか?」私は手のひらの汗をズボンで何度も拭っていた。
「違いますよ。先生は自分からスマホにアプリを入れたじゃないですか」
「アプリ?」
「思い出しましたか? 動体検知カメラのアプリですよ。あれは先生の位置情報を把握するためのものなんです」
「だってあれは勝村さんの……勝村さんもグルなのか?」
「グルじゃないですよ。僕が勝村なんです」
「はあ?」私とカエラの声がハモっていた。
「驚きました? 先生全然気付かないんだもん。笑っちゃいますよ」
「何いってんだよ……ニット帽の男と顔が全然違うだろ」
「あの子はバイトです。先生にそう教えたじゃないですか。信じないんだもんな〜」
「声が違うだろ」
「ボイスチェンジャーですよ。外しますね」賢也は一瞬の間を置いて話を続けた。「どうですか? この声に聞き覚えありませんか?」
その声は確かに勝村だった。私の頭の中はあらゆる感情がもつれ合っていた。この期に及んで勝村が生きていた事への喜びが湧き上がるほどに混乱していた。そんな中、怒りの感情が瞬間的に全てを塗りつぶした。
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