18話目

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 家が見えてきた。私が僅かな時間しか過ごしていない豪邸だ。ローンの殆どは明日香が予定よりもかなり早くに完済したらしい。家の前に急ブレーキで停車。私はカエラを車に残したまま降りると玄関に向かって走った。  ドアを開けた瞬間に視覚と嗅覚が同時に絶望を伝えてきた。廊下の白い壁紙には血しぶきが付着。アイボリー色のフローリングには、各部屋を案内するかのように血の足跡がいくつも残されていた。居間に行くまでの間に、アシスタントが寝泊まりする部屋と漫画を描く作業部屋があるが、それらを横目に通り過ぎた。中には誰もいない。  広々とした居間に足を踏み入れると、頭にいつものマスクを被っている明日香が椅子に縛り付けられていた。マスクの隙間からは血が滴り落ち、服を赤く染めている。その隣にはナイフを握りしめた佐藤が立っていた。 「遅かったですね、先生」佐藤は全身に返り血を浴びていた。 「……」私は足から力が抜けていくのを感じていた。 「大切なものを失う気持ちが、少しは分かりましたか?」 「クソ野郎」 「先生、悪い癖が出てますよ。マスクを外さないと明日香先生なのかどうかなんて、まだ分からないでしょうに。どうして自分の目で確かめていないものを信じるんですか」佐藤はニヤニヤしながらナイフの先で明日香のマスクを叩いた。 「やめろ」 「自分で確かめてください。あ、でも顔の皮膚が剥ぎ取られていたら誰か分からないか」 「……」 「先生にとってはいいネタですよ。今回の件を漫画にすればいいです」 「黙れ」
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