3話目

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「おい、何してる」  低い男の声を横から浴びせられた。誰もいないと思っていた私は派手に飛び上がり、言い訳の候補たちが頭の中で押しつけあい、そのうちの1つが口から飛び出してきた。 「資料になりそうなので写真を撮っていました。勝手に入ってすみません」 「資料って何の?」日焼けした男は、歯も日焼けしているかのように茶色く汚れていた。 「……漫画です」 「漫画家なんだ。名前は?」  私が正直にペンネームを告げると、男は破顔していた。サインをねだられることはなかったが、言葉が敬語に切り替わった。 「この辺に住んでいるという噂は聞いていましたよ。本当だったんですね。どうぞ、好きなだけ写真を撮ってください」 「ありがとうございます」 「新作ですか?」 「まあ……そんなところです」 「ずっと楽しみにして待っていたんですよ。早く読みたいです」 「発表されるかどうかは分からないです」 「そうなんですか。厳しい世界ですもんね」  私はすっかり機嫌が良くなり、部屋に戻るとさっそくネームを描いた。今回は得意分野である。かつてグロテスクなホラー漫画を発表して旋風を巻き起こしたのだ。すぐにネームは仕上がり、時間を持て余したので1ページ目のペン入れを開始した。  今回の内容によって、賢也の思い描くシナリオが創作であることが明確になった。胎児とはいえ殺せば立派な犯罪である。それを他人に教えるわけがないのだ。胸のつかえが下りる感じがしていた。そして腕によりをかけて残酷な描写にしてあげようと誓っていた。  撮影してきた便所の写真を眺めつつ、考えていた。賢也はどこに住んでいるのだろうかと。公衆便所のある公園はいくらでも存在するが、近くに焼却炉がある公園となると一気にその数が絞られてくるはずである。賢也は意外と近くに住んでいて、同じ公園を使って想像を膨らませているのではないか。そんなことを考えると、急にソワソワしてくるのだった。
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