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月曜日の深夜。私がシフトに入っていると賢也が突然目の前に現れた。人形の入った紙袋をカウンターに置くと、何も買わずに無言のままコンビニを出ていく。電話以外では会話をしないというルールはそんなに大事なのだろうか? 後を追いかけて話をしたかったがワンオペであるためできない。
人形は見るからに素人が作ったものだ。縫い目が粗く、中の綿が所々からハミ出している。表情は母の日に描かれる子供の落書きみたいに単調だが、それが余計に不気味さを強調していた。背中には穴が開けられ、小さなモノを収納できるようになっている。ここに爪や髪を入れて使うのだろう。
客足が途切れた時に事務所で休憩していても、人形が気になって仕方ない。中に盗聴器が仕掛けられているかもしれないのだ。猜疑心がとめどなく溢れ、背中の穴から指を突っ込んでほじくり回すが何も出てこなかった。
深夜勤務が終わると、朝方にパートの中年女性二人と交代するのだが、この内の一人が恐ろしいほどに性格がねじ曲がっている。人の仕事に必ずケチをつけるのだ。
名前は鈴竹広美。過去に私は何度も殴りそうになっている。特に腹が立ったのは、深夜の勤務は時給の25%増しであるため、私は他の従業員よりも給料が高く設定されている。鈴竹はそれが気に入らなくて噛み付いてきたのだ。
「深夜は客がほとんど来ないんだから遊んでいるようなものでしょ。なんで25%増しなのよ。腹立つ」
「仕方ないじゃないですか、そういう決まりなんだから」私は冷静に対応した。
「誰が作った決まりか知らないけど、お金は流した汗の量と比例しないといけないでしょ。どうせ暇だからスマホばっかりいじってるんでしょ」
「何が言いたいんですか?」
「皆と同じ時給にしてほしいと店長に言えばいいじゃない」鈴竹は真顔だ。
「あなたにそんなことを指示される筋合いはないです」
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