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「質問なんですけど、4ページで1話という事でいいんですか?」
「そうですね。とりあえず全12話になります。そこからは母の寿命次第になります。13話、14話と引き伸ばしていくかもしれません。先生の漫画を読みたくてもっと頑張って生きようと母が思ってくれたら嬉しいんですけど」
「親孝行ですね」
「いえいえ、僕なんて親不孝者ですよ」
「こちらから一つだけ条件を出してもいいですか?」私は人差し指を立てた。
「なんでしょうか?」
「作者名を渡辺ロイじゃなくて、別のペンネームにしてもいいですか?」
「なんで、ですか?」賢也は筋弛緩剤を打たれたかのように表情を失っていた。
「もしも作品がネットとかに流出したら困るので」
「……先生は僕のことを信用していないんですね」賢也は俯いていた。
「もしも、という場合があるじゃないですか。流出したら面倒くさい事になりそうなんで」今日会ったばかりのお前のことを信用できるわけねーだろとは言えない。
「僕だけじゃなくて、母も先生の大ファンなんです。別のペンネームの作品を母に渡しても、喜んでくれないかもしれないです。これは渡辺ロイ先生の作品なんだよと言っても信用してくれるかどうか」
「絵を見たら僕の作品だとすぐに分かりそうですけどね」
「駄目です! 他のペンネームなんてありえない!」
「……分かりました。取り消します」
賢也は感情の切り替えが苦手みたいだった。突然ギアを上げてくる。私は冷静さを装っていたが心臓が破裂しそうになっていた。
電話番号やLINEの交換を済ませると、賢也は最後まで帽子を取らずに深々と頭を下げてから店を出ていくのだった。礼儀正しいのかよく分からない奴だ。
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