2話目

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 私はコーヒーショップに飛び込むとアイスコーヒーを注文し、出来上がるのを待っている間に周囲を見渡して、スマホで顔を隠している女性たちの中から娘の矢野カエラを探し出す。以前は笑顔で手を振ってきたが、今は反抗期に突入したせいか、真横に接近しても目すら合わせてくれない。ようやくカエラを見つけると、コーヒー片手に距離を縮め「待った?」と優しい声を掛けた。 「別に」カエラはスマホを凝視したまま素っ気ない返事をした。 「お腹は空いてる?」 「普通」  普通というのは「食べてもいいよ」という意味だ。何を食べたいか訊いても「なんでもいい」としか言わないため、毎回周辺のレストランを検索して、行ったことのない新しい店を開拓している。大抵は私の食べたい店を選ぶが、カエラは一度も文句を言ったことはない。スマホで店を調べながら会話を続けた。 「学校はどう? 友達はできたか?」ありふれた質問をしてみた。 「知ってどうするの? 友達に手を出すつもり?」 「そんなわけないだろ」私はヘラヘラしながら否定していた。  浮気をして離婚の原因を作った事を、カエラは決して許してはくれない。時間が解決するかと思っていたが、成長するほどに私への嫌悪感が増している気がする。 「彼氏はできたか?」 「毎日のようにカレシとエッチしてる」 「嘘だろ?」 「うん」  これも私への当て付けだ。大ヒットしたホラー漫画の連載が終わると、その後は低迷し、苦し紛れにエロ漫画を描いたのだが、これが完全に裏目に出た。それなりの部数を売ることはできたが、既存のファンが離れていく結果になった。バイト先の井口にも指摘されていたが、生きていくためには仕方ない選択だったと思うことにしている。
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