一人の鬼と二人の聖女

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珍しく個人的に良い出来事があった日は決まってそうだ。 私の手に付けたリストバンド状の端末から警報が鳴った。 それはあたりにいる一般市民にも違う音ではあるが鳴り響いていた。 「アークス各員に通達です。アークス船団128番艦(テミス)に多数のダーカーが出現。幸いにも居住地区は狙われておりませんが工業地区の方に多数の反応があり素早い撃破が必要です。非番のアークスにもご協力願います。」 焦ったような声で流れてくるオペレーターからの声。 私は、端末に表示された「了解」のボタンを押し、チームの通信へと繋いだ。 「マスター、聞こえる?」 「あぁ、状況はこっちにも伝わってきている。悪いが非番はここでお終いのようだ。頼めるか?」 端末から聞こえてくるのはチームのマスターで通称【マスター】。 ふざけてる訳でもなく彼女はすべての人間にそう呼ぶように指示しているのだ。 「了解。私がたまに外に出るといっつもこうよね。まったく、だから嫌って言ったのよ。」 「それについてはすまないと思っているよ。今度お前の好きな甘味でも買っておくから機嫌直してくれ。」 嫌味を込めた私の言葉に少しすまなそうに返すマスター。 だが機嫌を直すために甘味を買ってくるって私は子供か? まぁこの人が母親代わりだからこの人の子供であながち間違ってはいないのだけれど。 「とりあえずどこに向かえばいいの?いつも通り本部より状況見えてるんでしょ?」 「・・・そうだな。北西地区の工業地区が人数が手薄でそこに大群が現れそうな予兆を感知している。悪いが急ぎで行って貰えるか?」 このマスター、アークス船団の各艦に細工をしていて本部でも把握しきれないほどの情報を瞬時に引き出すことができるのだ。 どうしてこんなことができるかを尋ねてみても「歳の甲さね」と言ってはぐらかされるのであえて聞かないようにしている。 「了解。ただ急ぎって言ってもここからの距離相当あるわよ?」 「お前が本気で走れば間に合う想定だ。道すがらのダーカーはすべて無視して構わない。他のアークスが片付けてくれるはずだ。」 「なるほどね。なら周り無視して言われた通り本気で行くからね?」 そう言って私は端末を操作し、さっき着替えたばかりの服から 戦闘服へと装いを変えるのだった。
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