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第1話 アーリー・スプリング1
優しい色彩の森を抜けると光の満ちる瞬間があって路雄は立ちすくんだ。風は春先めいているが日差しは温く、光の中へ踏み出すと小鳥のさえずりが近づく。静かに佇む白い教会の屋根に声の主と思われる小鳥を見つけたが、靴底が立てた音に飛び去った。
どこか近寄りがたい厳かさをまとう教会を斜めに眺める位置にはベンチがあって、腰を下ろした路雄はここまで大事に持ってきた女物の腕時計を取り出した。カバー部分が割れていて針も動かない。後で警察から聞いた、紗也子が事故に遭った時間と一致している。見るたびに辛い現実を思い出すが、二人で軽井沢を訪れるという約束をようやく果たせた気がして路雄は安らいだ。
「良い天気だよ。少しゆっくりしよう」
腕時計を重しに広げた紙には、四ヶ月前まで生きていた折本紗也子という女性のことが書き込まれている。最初はレポート用紙二枚に渡った文章を四割程度まで削った。推敲を経たことで、鮮明かつ表情豊かな紗也子が虚空に表現される。
「静かで良い場所ね」
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