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⑪僕は家族を紹介したい
ではまず、「二日酔いはへべれけ」というギルドについて簡単にご紹介しておきたい。このギルドは、いわゆる弱小ギルドというやつだった。
僕が「へべれけ」に入ったころにはすでに、ギルド同士で世界中に点在する拠点を奪い合う「攻城戦」というイベントが毎週おこなわれるようになっていた。
一時間ほどギルド同士の戦闘が続く「攻城戦」において、最後まで自分たちが確保した拠点を守りきれば、次の週までその拠点が自分たちの城となる仕組み。
十二拠点ある城のなかでも大きい城、小さい城など規模は様々で、名だたる大手ギルドはその大きい城を獲得するべく、文字通り命がけの戦いを繰り広げていた。
弱小ギルドの「へべれけ」はその攻城戦において、終戦間際にちいさな拠点をひとつ確保できるかどうかくらいのレベルだった。同盟ギルドに「永遠の歯車」という最大手ギルドがあり、ほぼ毎回そこに守ってもらっていた。「永遠の歯車」の援軍が間に合わないときなどは城を追い出され、宿無しギルドとなることもたまにあった。
「へべれけ」の主要メンバーはたったの五人だった。はじめのころはもう少したくさんいたが、いつの間にか五人になっていた。ギルドマスターのたいじんくんにガチ勢の犬田くん、いつもパリピのようなサングラスをかけてるIKEDAさんに、不思議キャラのベティさん。そして嘘つきAYAKA。この五人。少ないけれど毎日のように顔をあわせて、まるで家族のようにあたたかいギルドだった。
ギルドマスターのたいじんくんは学生さんだった。リアルでは大学三年生で就活をはじめていた。就職しても「ユグドラシル」は続けたいと豪語していたが、たぶん厳しいだろうな……と僕は内心で思っていた。社会人一年目というのは、生活の変化がめまぐるしいし、なによりもむちゃくちゃ忙しい。MMOなんて、きっとやってる暇はない。少しあとの話になるが、実際、たいじんくんは、ある日を境にユグドラシルの世界から姿を消すことになる。それはギルドマスターとしての重責からなのか、リアルの生活の変化からなのか、真相はもう闇のなかである。
犬田くんは本当に強いひとだった。なんで「へべれけ」のような弱小ギルドにいるのか首を傾げてしまうくらいのガチ勢だった。どうやら前作の「ユグドラシル・オンライン」では結構名の知れた有名プレイヤーだったらしく、よく当時の思い出話を聞かせてくれた。僕のことを「アヤ姐」と呼び、まさに犬のように可愛らしく懐いてくれたのだが、年齢の話などしていないのに、なにゆえ僕を「姐御」と慕ってくれるのかは謎だった。
IKEDAさんは女性(たぶん本当に)だった。そして、IKEDAにもかかわらず苗字は「池田」では無いらしい。じゃあなんでIKEDAなのか……よくわからなかった。「ユグドラシル」のシリーズが大好きで「ユグドラシル・マスターズ」のシンガポール版が先行リリースされたとき(日本版のリリースより数か月前だったらしい)、現地の人たちに交じって遊んでいたのだそう。まさかの海外勢だった。しかし、英語がぺらぺらなのかと思いきや、ハローとかサンキューくらいしかしゃべれない。どのようにコミュケーションをとっていたのか摩訶不思議である。あと、繰り返しになるがパリピのようなサングラスがよく似合っていた。
ベティさんは不思議さんだった。艶やかなロングの黒髪がよく似合う女の子。神出鬼没なひとで、気づけば後ろに立っていたり、僕の隣にちょこんと体育座りしていたことなんかもあった。無口なひとなんだけど、とても優しくて面倒見がいいひと。もしかしたら、いちばん仲がよかったかもしれない。
みんな仲良しで、僕たちはまるで家族のようだった。いまでこそ疎遠になってしまったが本当に大切な仲間たちだった。そして、いま思えば僕はたぶん「へべれけ」のみんなにすこし甘えていたんだと思う。
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