⑫僕はもっと強いギルドにしたい

1/1
前へ
/25ページ
次へ

⑫僕はもっと強いギルドにしたい

 この世界線にはほかにもたくさんのギルドが存在した。世界線の英雄「永遠の歯車」、謎の闇組織「浪人街」、戦闘狂集団「Vengal(ヴェンガル)」、女子力軍団「RRR(トリプルアール)」。とくに大きな組織はこの四つのギルド。これらのギルドは「へべれけ」のような弱小ギルドと比べると段違いの人数と戦闘力を有していた。  彼らは毎週開催される攻城戦において、世界線に三つしかない大きな城を獲得すべく、文字通り次元の違う戦闘を繰り広げていた。  そのほかの小規模ギルドは、これらの大手ギルドとどうにか同盟関係を結び、庇護下に入れてもらうしかなかった。守ってもらう代わりに攻城戦に参加する。手伝えることは少ないが、攻めてきたギルドに玉砕覚悟で奇襲を仕掛けることくらいなら弱小の僕たちにもできた。 「永遠の歯車」はとてもかっこいいギルドだった。世界平和をスローガンに掲げる、まさに物語の主人公たちのような集団だった。どこかに攻め入ったりは絶対にしない。自陣を守る、同盟ギルドも守る。世界線に存在する弱小ギルドたちはみな彼らに憧れて、尊敬した。「永遠の歯車」の目標はすべてのギルドと同盟を結び戦争を集結させること……誠に壮大で素晴らしい理念だと思った。 「浪人街」は謎の組織だった。色で例えるならば「黒」。まさに闇の組織。そして、たぶん世界線でいちばん人数の多いギルドだった。攻城戦では、はちゃめちゃに強かった。彼らは世界平和を謳う「永遠の歯車」と敵対しており(戦争がないとゲームとしてつまらないという理由から)、攻城戦では、それはもう本当に街がひとつ消し飛ぶんじゃないかというくらい激しい戦闘を繰り広げていた。喧嘩をふっかけない限りは、なにもしてこない。でも「永遠の歯車」との戦闘に肩入れするようなら拠点ごと滅ぼすぞ……というような無言の圧を感じる、恐ろしいギルドだった。 「Vengal(ヴェンガル)」は血に飢えた戦闘狂の集まりだった。大きな城を拠点として確保するや否や、複数の小隊に分かれて、規模の大小関係なく様々なギルドの拠点に攻め込んでくる、大変迷惑な集団だった。僕たちが何度か「宿無し」にされたのは、ほとんどすべてこの「Vengal」のせいだった。目的とかいらない。戦えればそれでいい。一時間で何拠点滅ぼせたかで賭け事をしているようなイメージ。色で例えたら間違いなく「臙脂(えんじ)色」だろう。血に飢えたヴェンガルの猛虎たち……まさにそんな雰囲気だった。 「RRR(トリプルアール)」は僕にとっては、いちばん恐ろしい集団だった。「ザ・女子力軍団」である。入会条件はただひとつ、女性であること。「世界線の女子で結束し、女子たちだけで盛り上がろう」などという恐ろしいスローガンを掲げた集団だった。なるべくならばお近づきになりたくない。さすがにそんな女子たちに囲まれたらAYAKAの擬態は、瞬時に看破されてしまうだろう。僕は街を歩くときも攻城戦のときも、なるべく「RRR」のひとの近くには寄りつかないように行動した。その意味不明なスローガン以外はとくに害はなく、むしろ友好的。「永遠の歯車」とも同盟関係にもあったようなので「へべれけ」にとっては味方のようなものだった。  そのほかにも「ネコキュート」とかいうギルドや、「神々の遊び」など「へべれけ」と同規模な弱小ギルドはたくさん存在していた。しかし、攻城戦がはじまるころには、それらの弱小ギルドと大手ギルドとのあいだには埋められないほどの圧倒的な力の差が生まれてきており、徐々にギルドの統廃合も進みはじめていた。  僕はそんななか、あるひとつの計画を練り、犬田くんにだけこっそり打ち明けることになる。  犬田くんは「Vengal」や「浪人街」の奇襲に対して、なにもできない「へべれけ」の実情を、いつも悔しがっていた。「永遠の歯車」に頼りっきりの状況も本当は嫌がっていた。僕もそれには同意見で、家族のように大切な「へべれけ」をもっと強いギルドにしたいと願っていた。  犬田くんは僕の計画にすぐに賛同してくれた。だから僕はその計画を行動に移した。これこそが嘘つきAYAKAの悪行のひとつであり、やがて家族のように大切だった「へべれけ」すらも崩壊させるに至った魔の計画、「トラノイ計画」のはじまりである。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加