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⑰心強い味方
「帰るぞ」
Jaggerは、まるで何事もなかったかのように、涼しい顔でそう言って、ふたたび僕に手を差し伸べた。僕はその手のひらをぎゅっと握り、涙目で感謝の意を表した。
「あの、ありがとうございました」
「おう」
「あの、なんで」
「ああ?」
「なんで、わざわざ助けにきてくれたんですか?」
僕は勇気を出して、Jaggerに対してそう聞いてみた。Jaggerの真意がわからなかった。彼は戦闘狂として名高いVengalのメンバー。とてもじゃないが人助けなんてするようなギルドに思えない。なぜ、助けてくれたのか。わざわざ、知り合いでもない僕のもとになんか来てくれたのか。その理由が聞きたかった。
「暇だったから、それに」
「それに?」
「困ってるやつは助けるだろ」
そう言うと、Jaggerはすこし恥ずかしそうに鼻の下を指でこすった。ちょっぴり可愛らしいひとだと、そう思った。悪いひとではない。もしかしたら僕たちはVengalというギルドに対して、なにか大きな勘違いをしているのではないか。そう、思った。
それから僕はJaggerに守られながら、がらくた工場をあとにした。そして別れ際に「これもなにかの縁だから」とフレンド登録をしてくれた。
「また困ったことがあれば、遠慮なく呼べよ」とJaggerは言ってくれた。
「あたしも、なにか役に立てることがあれば遠慮なく言ってください」と僕は返した。
とはいえ、きっと役に立てることなどなにひとつないだろう。でも、僕にはそう言うしかなかった。ただ「ありがとう」を言うだけでは、あまりに恩が大きすぎた。
「あ、自己紹介が遅れました。『二日酔いでへべれけ』というギルドのAYAKAと申します」
「今更かよ、俺はJagger。Vengalっていう、ろくでもないギルドのギルマスをやらされてる」
「ギルドマスターさんだったんですね?! あの、すみません。正直、Vengalのひととはお話したこともなくて……」
「他人の家を潰すことしか興味ないような連中だからな。でも、悪いやつらじゃない」
「そういえば。このまえ、宿無しにされました……」
「ははは、弱いのが悪い」
Jaggerさんはそう言うと、とても楽しそうに大きな声で笑った。悪いやつらじゃない……その言葉が真実であることを証明する必要もないくらい、眩しい笑顔だった。雲ひとつない青空のような笑顔だった。このひとのことは信じられる。なんとなく、そのとき、そう確信した。
「またな」とJagger。
「はい」と僕。
そうして、僕とJaggerさんは運命の出会いを果たした。そしてこの日から、僕ことAYAKAはVengalおよびJaggerという心強い味方を手にすることになったのだった。
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