⑱他力本願

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⑱他力本願

 気づけば、また物語調になっている……だから、慣れないエッセイになど手を出すべきではないのだ! なにが「雲ひとつない青空のような……」だ。そんなステキ表現使っている暇があったらさっさと完結しやがれ、である。手短に……手短に!  とにかく、そのようにして僕はJagger氏と知り合い、交流を深めていく運びとなる。僕は女の仮面を被っていることをいいことに「助けて、Jaggerさん!」を見境なく使いまくった。まるでパパ活に目覚めた女子高生さながらである。好き放題にその魔法の言葉を唱えた。  ──いわゆる、姫プというやつである。  なお、「姫プ」とは「姫プレイ」の略であり、主に、オンラインゲームのチームプレイにおいて「仲間に守ってもらいながらゲームを進める」ようなプレイスタイルを指す語。さながら公達の姫君のように、周囲に護衛させながら進行する・自分は積極的な行動は取らず周りの者に頼るような・他力本願なプレイスタイルのことである(実用日本語表現辞典より引用)。  その通り、AYAKAはとにかく他力本願なのである。  そ、そもそも「また困ったことがあれば、遠慮なく呼べよ」とイケメン発言をしたのはJagger氏のほうである! むこうにだって非はあるのだ! 当時、AYAKAとして女子になりきっていた僕は、遠慮なくそのお言葉に甘えた。かっこよすぎる素敵騎士、Jaggerに頼りまくった。  ──ああ、そうさ! こればかりは、もはや弁解の余地もない。言わずもがなのクズである! そう、これから先のAYAKAはクズでしかないのである!  さらにJaggerという素敵騎士を手に入れたAYAKAは、ついにその背後に控える軍団「Vengal」すらも利用しようと画策をはじめる。  ──これこそが、前述の通りの悪だくみ「トラノイ計画」である。  Vengalは僕とJaggerが知り合いとなったあとも、たびたび「へべれけ」の拠点を強襲してきたりしていた。しかし、なぜか「へべれけ」だけは他の小規模ギルドたちの拠点と異なり、堕とされることがなくなった。寸止めで終わるようになったのである。そして、「へべれけ」は宿無しになることが皆無となったのだ。  むしろ「へべれけ」の拠点に訪れる戦闘狂軍団たちは、問答無用で容赦なくその陣地にいる相手に噛みつくため、逆に「へべれけ」を守っているような構図にすらなった。 「Vengal」の飢えた猛虎たちは「へべれけ」の拠点において、占拠はするが陥落はさせない。「へべれけ」を守ろうとする「歯車」や「RRR(トリプルアール)」には問答無用で斬りかかり、「へべれけ」に攻め入ろうとする小規模ギルドたちにも容赦なく襲いかかる。その謎の状況に、IKEDAさんやベティさんなどの身内のメンバーも困惑ぎみだった。  ──すべて、仕組まれていたのである。  女狐「AYAKA」の策略だったのである。AYAKAは自分のギルドを守るため、平気で同盟相手である「歯車」や「RRR」を敵に売ったのである。  それも、まさに餌のような扱いで……。  僕とJaggerは内通していた。「Vengalが今日はどこに攻め込む」とか、「へべれけがどこの拠点を手に入れたい」とか、「次週、『歯車』がどこに集結する」とか、そういった機密情報をお互い共有していた。  AYAKAはもはやVengalのスパイであった。「歯車」の同盟ギルドに所属しているにもかかわらず、平然と裏切る、おぞましいほどに不義理な女であった。  さらにAYAKAは他の小規模ギルドたちに対しても、その毒牙を向けはじめる。  小規模ギルドの幹部を捕まえては、まず「へべれけ」との合併を誘ってみる。断るギルドに対しては、翌週にVengalを向かわせる。そして晴れて宿無しとなったそのギルドに対して、ふたたび合併の話を持ちかける。 「へべれけに入れば、襲われない。へべれけ以外のギルドは襲われる。なんならまた、Vengalに襲われてみる?」と。  ──もはや、完全なる脅しなのである!  とんでもない女なのである! 恐怖政治家なのである! 自分にはなんのチカラもないくせに、他力本願で戦闘狂集団たちを傘にして、小規模ギルドたちを脅していたのである。  効果はすぐに現れだした。そのあたりの時期から、小規模ギルドたちの解散が急加速したのである。  しかしその最低最悪の計画は、最後には悲しい結末を迎え、終了することになる。次項ではその顛末を記していくことにする。
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