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⑲罪と罰
結論から申し上げると、その非道なる作戦「トラノイ計画」によって「へべれけ」に合併を申し出てくるギルドは皆無であった。
……当たり前である。こんな脅しみたいな作戦、応じるわけがない。場合によっては、反感すら買いそうなものである。
また、数週間ももたずにVengalの暴走を抑えきれなくなったということも作戦失敗の理由として挙げられる。
Jagger氏は相変わらずの紳士で、AYAKAに対しては優しかった。しかし、とはいえ大規模ギルドを束ねるギルドマスターだ。どこぞの馬の骨かも分からない女(女でもないし)よりもギルドメンバーの意見、要望が優先である。
Vengalのメンバーたちは、毎週の戦いに張り合いを感じなくなってきており、次第に世界線を越えた戦場を求めるようになっていった。彼らはべつの世界線へと遠征し、蹂躙のかぎりを尽くすという新しい遊びに夢中になった。とんでもない戦闘狂たちである。
皮肉なものだが、そのために、僕たちの存在していた世界線には平和が訪れた。Vengalが喧嘩を売った他の世界線のギルドが一気に押し寄せてきて、世界線をまもるために「歯車」、「浪人街」、「Vengal」の共闘みたいなことだって起きた。徐々に世界線内での争いは無くなり、合同イベントみたいなものも開催されるようになったりした。
そういった変化と時を同じくして、犬田くんが他の世界線のギルドに旅立っていった。きっと「トラノイ計画」の失敗により、居心地が悪くなったことも理由のひとつだったのだと思う。僕も実はギルドのメンバーとは、すこし距離のようなものを感じるようになっていた。
さらに、これも同じくらいのタイミングで、ギルドマスターのたいじんくんがゲームを辞めた。就活が理由とのこと。これも仕方のないこと。いままで、この「へべれけ」というギルドをまとめあげるのに相当な苦労をしたに違いない。たいじんくんのお別れ会はIKEDAさん、ベティさん、僕、犬田くん(そのときはもうべつのギルドだったけど)で盛大に祝った。
取り残された僕らは、いままで敵対関係にあった「神々の遊び」という小規模ギルドに吸収合併される形で落ちついた。新しいギルドの名前は「神々のへべれけ」というヘンテコな名前になった。僕はその「新生へべれけ」におけるサブマスターへと就任した。
その社交性と交友ネットワークを買われての人事だった。「神々」と秘密裏に繋がっていたのも実は僕だった。
「Vengal」とも繋がり、「浪人街」のメンバーたちともこっそり狩りを楽しみ、敵である「神々」とも繋がりを持っていたAYAKAは、一見すると社交性の高い楽しい女の子であったが、要するにただの八方美人でしかなかった。
いちばん付き合いの長いIKEDAさんやベティさんは、たぶん随分前からそれに気づいていたのだと思う。
調子に乗りすぎた、僕の罪。
そして、いつの日からか僕たちのあいだに流れるようになった、微妙な空気こそがその罪における対価。
僕への罰だった。
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