④僕は女の子を選びたい

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④僕は女の子を選びたい

 さてさて。ではまず僕がなぜ、そもそもMMORPG「ユグドラシル・マスターズ」において、女性アバターを選んだのかについてご説明をしておきたい。  言うまでもなく僕が最初から「女性アバター」を選んでいなければこれから起こる嘘の連鎖は未然に防げていたに違いない。そんなことはわかっている。しかし、これは逆に、僕にとっては避けようもない選択だった。もし仮にいま、過去に戻れたとしても、きっと僕は変わらずに「女性アバター」を選択するだろう。  まず前提として、僕は子どものころから「主人公の見た目を選べる」ゲームが好きだった。古くからあるゲームで言えば、スーパーロボット大戦やパワフルプロ野球などがそうであった。それらの「キャラ選択」ができるゲームにおいて僕はひとつ、必ずと言っていいほど決めていることがあった。これは小学生のころからそうである。  ──それは、絶対にということである。  ……いや、待て。本気で待ってくれ。やっぱり、なにか語弊がある。いま、ふたたび読者の皆さまがドン引きする気配を感じた。違うんだ。本当に違うのだ! まずは話を聞いてほしい。  僕は女の子になりたいから女の子を選ぶのではない。女の子をから女の子を選ぶである。前者と後者とでは大違いだ。そしてこれは恐らく小説やゲームなどを楽しむ姿勢にも密接に関係している気がする。  読者の皆さまは小説を読むときやゲームをするとき、主人公になりきって感情移入しながら楽しむだろうか。はたまた物語の流れを俯瞰しながら、まるで芝居でも観劇するかのような感覚で楽しむだろうか。きっと楽しみかたはひとそれぞれだろうし、もしかしたら作品によっても楽しみかたが変わるかもしれない。  僕に関しては、どのような作品であれ、登場人物になりきってプレイしたという経験はあまりなかったような気がする。それはもしかしたら、僕があくまで単純にゲームを楽しみたいだけの人間であり、別世界に没入することにそこまでの興味がないからかもしれない。  ただし、観客のような視点をもって世界を俯瞰しながらゲームをするためには、ひとつ……理想と言える条件がある。  ──主人公は、のだ。  ……ま、まずい。読者の皆さまとの距離がどんどん遠のいていく。ほ、本当に違うのだ! 話を聞いてほしいのだ。  以前も述べたように僕は勇猛果敢にして豪放磊落(ごうほうらいらく)な快男児である。なにが悲しくて、男のキャラクターを作成し、それを鑑賞し、そいつと何時間もゲーム世界をともにしなくてはならないのか。  男性しか選べないゲームなのであれば、致し方ない。それはもう、そういうものである。そんなものにすら文句を言っていたらもはや迷惑クレーマーの仲間入りであろう。  あくまで、選べるのであればである。  もし、主人公の性別を選べるのであれば、一緒に旅をするのは当然に女の子がいい。そう、backnumberの楽曲「ヒロイン」の歌詞と同様の心理である。「雪が綺麗」と笑うのは君がいいのである。たとえイケメンだろうが男の口から「雪が綺麗」とか言われても、「う、うるせーっ!」なのである。  それが男として至極当たり前の心理である。  僕がどのようなゲームであれ女の子の主人公、女の子のアバターを選ぶのはこういう理由からだ。これに関しては、これからの人生においても一歩もひくわけにはいかない大切な条件であると考えている。
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