幻燈海月

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 11月に入ってまもなく、高校の三者面談があった。遅刻や欠席もほとんどなく、クラスの人間ともそれなりに過ごしていた。というよりも、不本意ながらも工夫し、仮面の下にある「歪な顔」を悟られないように努力を重ねていたのだ。  来年から文系か理系か、選択しなければならないということもあり、面談は概ね成績の話に終始したが、大学を卒業したあとは何になりたいのかと、そんな先のことにまで話が及んだ。明日どころか、今日、何がしたいのか、それすらわからないというのに、6年以上も先の未来について、一体全体何が考えられるものかと、私は内心冷めた気持ちで女たちの顔を眺め見ていた。  自分の母親よりひとまわりは下だろうと思われる担任の目は、いつもと変わらず、根拠がどこにあるのかも知れない自信に満ちあふれていて、なおかつ、「落伍者予備軍」という「危険分子」を注視するような、独特の色を浮かべていた。  私は日頃から、担任の目は母親のそれと同じ質をしていると思っていた。  だから私は想像してしまうのだ。  ――担任もきっと、「先生」という肩書きをかざさなくてよい場面では、母親と同じようにグロテスクな挙動を示すのだろうと。
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