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ジュールは月の裏側
一般人も月に旅行に行けるようになって、早百年ばかりが過ぎていた。これは、人類の力だけではけして成しえなかったことだろう。
月は重力が弱いし、酸素もない。
宇宙服を着て、弱い重力の中を自由に動き回るのにはどうしても訓練が必要。そのために鍛え上げた一部の人でなければどうしても危険を伴うものだ。
それを可能にしたのは、極めて簡易的な宇宙服――正確には宇宙服に代わる装備が発明されたからに他ならないのである。
それは、特殊なエネルギー体を体に纏うという、まったく新しい装備だった。小さな腕時計のような装置に収納でき、ボタン一つで着脱可能。しかも、普通の服の上にすっぽりと纏うことができ、極めて身軽に動くことができる優れモノ。
開発に成功したのは、月に住む住人達の協力があったからに他ならなかった。
「まさか、月の裏側に生き物が住んでたなんてねえ」
十二歳になった私は、まんまるのお月様を見上げながら言う。
「月って、いっつも同じ面ばっかり地球に向けてるから……裏側の観測って難しいんでしょ?だから、月人……異星人?の存在に気づかなかった、と」
「そうね香織。月の裏側の観測がまったくできなかったわけではないけれど、どうしても表と比べて着陸も大変だしね。裏側の方が、表側と比べてだいぶのっぺりした見た目だっていうのは有名な話だけど」
綺麗な満月に見とれる私の隣に座り、お母さんもうっとりと空を見る。
元々、月や星を見上げるのは大好きだった。学校の勉強でも、理科で星の勉強をしている時はテンションが上がったものである。
さらに輪をかけて今、私達親子が夢中になって月を見る理由はただ一つ。やっと、私達橘家にも、念願の月旅行のチケットが当たったからに他ならない。
「あと一週間!」
私はびしっと月を指さして宣言したのだった。一週間後。私達家族にとって、特別な一日が始まるのだ。
「待ってろー月面基地!」
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