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絶縁状
アンナ・ニルセンは今後いっさいエミリー・ゲレンダールとの関わりを持つことをやめることにいたします。
理由はルカス・イングスタット様との婚約を私に隠していたことです。
朝刊にあなたの婚約のことが書かれていました。
新聞であなたの婚約を知った私の気持ちがわかりますか。
あなたと私は幼馴染です。幼馴染は親友でしょう?
大切なお友達だと思っていたのは私だけだったのかしら。
私はどんな些細なことだってあなたに話をしてきました。
親友だったらなんでも教え合うのは当たり前でしょう?
婚約はとても大事なことよ。それを私に秘密にするなんてひどいわ。
親友だったら相談するべきじゃない。
私は誰よりもあなたのことを理解しているのに……。
私の気持ちをあなたは踏みにじったのです。
だから私はあなたと縁を切ります。
今度あなたの身に何が起ころうと私は助けてあげません。
あなたがどんなに困ったことになっても絶対です!
覚悟をしておいてください。
手紙を読み終えたエミリーは頭を抱えた。
「……これって、縁を切ると言いながら私になにかするつもりなのかしら?」
アンナとは幼い頃から付き合いがある。エミリーは彼女が幼馴染であることは認めている。
しかし、親友と呼べるほどの距離感で接していたつもりはなかった。
アンナとはあまりに価値観が違いすぎるのだ。
「アンナがなにかをするつもりだったとしても、誰も取り合わないと思うわよ」
手紙を読んでいるエミリーを見ていた友人が、呆れた顔をして言った。
級友たちもその友人に同意するように次々と話し出す。
「こう言っては悪いけれど、私はエミリーがアンナと親しいと思っていたから、あの子と付き合っていただけというか、ねえ?」
「そうね。アンナがエミリーとの付き合いをやめると言うなら、こちらもあの子との付き合いをやめるだけよ」
「私たちエミリーは好きだけど、アンナのことはそうでもないから」
級友たちの発言にエミリーは愕然としてしまう。
すると、なにも言えなくなってしまったエミリーに友人が優しく声をかけてきた。
「誰にも相手にされないとわかったら、アンナもすぐに諦めるわよ。あなたはなにも心配することないわ」
「……そうね。いくらアンナでも……」
エミリーがなんとか笑顔を作って話をはじめたとき、教師がやってきた。
友人たちは会話を切り上げると、慌てて席につく。
「ニルセン……、アンナ・ニルセンはどうした?」
教師が点呼を取る。
アンナは飛びだして行ったきり教室に戻ってきていない。
「ゲレンダール、ニルセンはどうした?」
教師は当たり前のようにエミリーにアンナのことを尋ねてくる。
教師もエミリーとアンナが親しいと思っているのだ。
「……さあ。私にはわかりませんわ」
「そうか。ゲレンダールがわからないなら仕方ないな」
教師はそう言って授業を始めた。
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