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「エミリー!」
昼休みになった。
エミリーが友人たちと食堂に向かおうとしていると、教室の入り口から自分を呼ぶ声がした。
声をかけてきたのは、婚約者のルカスだった。
「まあ、ルカス様。どうかなさいましたか?」
「ちょっと話がある。今いいか?」
「ええ、それは構いませんけれど……」
ルカスの表情が険しい。エミリーはその顔を見て不安に駆られる。
彼との婚約は昨日正式に発表されたばかりで、婚約のお披露目パーティーなどはこれから行われる。
婚約は互いの親が内々に進めていた。エミリーがルカスと顔を合わせたのは数えるほどしかない。
「よかった。それじゃ生徒会室まで来てくれるか?」
「……え、私が生徒会室に?」
「会長の許可は取ってある。急いでくれ」
ルカスはそう言ってエミリーの手を取るとさっさと歩き出す。
それだけで教室の中がざわついた。
この学園は良家の子供が通う王立の魔法学校だ。
中でも生徒会の役員に選ばれる者は、非の打ちどころのない優秀な者たちばかりだ。
ルカスはこの学園の生徒会役員である。
公爵家の嫡男で文武両道、それでいて見た目も麗しい。
当然ながら女生徒たちに人気がある。
「――あ、あの! 自分で歩けますから」
いくら婚約者とはいえ、注目されている中で異性に手を取られているということにエミリーは緊張してしまう。
握られている手がじわじわと汗ばんでくる。
気持ち悪いと思われていないだろうかと、気になってしかたがない。
「ルカス様、もう少しゆっくり……っきゃ!」
ルカスは険しい顔をしたまま、まっすぐに前を向いて歩いている。
エミリーでは彼の歩く速さについていくのは限界だった。
もうすぐ生徒会室に着くというところで息が上がってしまい、足がもつれてしまった。
「す、すまない!」
「……い、いえ。体力のない私が悪いのです」
「そんなことはない。気遣えなかった俺が悪い」
エミリーが転びそうになったので、ルカスが抱きとめてくれた。
ルカスの匂いに包まれる。彼の温もりを感じて頬が熱くなっていくのが分かった。
すぐに離れるべきだというのは理解しているのだが、恥ずかしくて顔を上げられなくなってしまった。
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