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5
エミリーは生徒会室の中に運ばれ、王子に治癒魔法をかけてもらった。
エミリーが恐縮しきりで腰を低くしていると、ルカスが咳払いをしてから話をはじめた。
「ここに君を呼んだのは、こんな手紙が生徒会室のドアに挟まっていたからなんだ」
ルカスから見せられた手紙には、エミリーを誹謗中傷する内容が書かれていた。
「……エミリーという女は人を人とも思わぬ悪辣な振る舞いをする……」
それ以上は口に出すのもおぞましいほどのことが書かれていた。
よく人をこれだけ口汚く罵れたものだと呆れてしまう。
「まさか、これを信じたなんてことは……?」
「そんなわけない。あまりに馬鹿らしい内容でまともに取り合う気にもならない」
「そうですわよね」
先ほど生徒会室前の廊下にいたことから、手紙はアンナの仕業としか思えない。
エミリーがそう考えていると、王子が腹を抱えて笑い出した。
「その手紙は馬鹿らしいが、ルカスは心配でたまらないそうだぞ。お前を今すぐ生徒会役員にしろとうるさくてな」
「殿下、笑い話ではないのですよ」
「笑えるさ。いつも冷静沈着なお前が婚約者殿の話となると取り乱すのだからな」
「こんな手紙を生徒会宛に送りつける者が学園内にいるとなれば、心配になるのは当たり前ではありませんか!」
「そうだな。親に頼み込んでようやく惚れた相手との婚約が取りまとまったのだから、邪魔をされたくはないよな」
王子の言葉を聞いて、エミリーはまた頬が熱くなるのが分かった。
てっきり互いの家の利益のために決められた婚約だと思っていた。ルカスからの申し出だとは知らなかった。
「あ、あの! どうして私を生徒会の役員に?」
エミリーは二人の話を聞いているのが気恥ずかしくなり声をあげる。
王子はニヤニヤと笑いながら質問に答えてくれた。
「ただの生徒ではなく、生徒会役員ならば余計なことができなくなるだろう?」
「それは、おっしゃる通りでございますが……」
王子の発言にエミリーが困惑していると、ルカスが頬に手を伸ばしてきた。
真剣な顔で見つめられる。心臓の鼓動で周りの音が聞こえなくなりそうだ。
「生徒会に入れば俺が一緒にいられる時間が増える。こんな馬鹿なことをする者から守ってやれるだろ?」
ルカスや王子は三年生で、エミリーは今年入学したばかりの新入生だ。
学年が違えば同じ学園に通っていてもほとんど関わることがない。
「生徒会役員は各学年から選出する。そろそろ一年の中から役員を選ばなくてはならない時期だ。婚約者殿ならば家柄、成績、なにもかも問題はない」
王子がエミリーの困惑を見透かしたかのようにそう言った。
「……本当に私でよろしいのでしょうか?」
エミリーは手紙に視線を落とす。
こんなものを送りつけられる者が生徒会に入って、学園の評判を落とすことにならないだろうか。
「そんなものは気にするな。誰も相手にはしない」
王子が手紙を奪い取った。
そのまま手紙を破りゴミ箱に捨ててしまう。
すると、それまで黙っていた他の生徒会役員たちが笑顔でエミリーに近付いてきた。
「ようこそ我が学園の生徒会へ。歓迎するよ」
皆が順番にエミリーと握手を交わして自己紹介をしていく。
それぞれが大貴族を親に持つ学園でも指折りの優秀な者たちだ。
この者たちと肩を並べていれば、さすがのアンナも嫌がらせはできないだろう。
「皆さんのご活躍に恥じぬよう、全力で努めて参りますわ」
最後の一人と握手を交わしたあと、エミリーはルカスを振りむいて微笑んだ。
彼はエミリーと視線を合わせて穏やかに笑う。
「うわあ、ルカスがこんなに優しく笑っているのなんて初めて見たよ」
ルカスは役員たちに茶化されて顔を赤くしていた。
エミリーの生徒会入りはその日のうちに学園中に広まった。
それでもアンナはエミリーを中傷する手紙を学園中にばらまき、時には直接的な嫌がらせをしてきたのだった。
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