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大混乱に陥っている会場に、アンナが堂々とやってきた。
友人がアンナを見つけて声を上げる。
エミリーたちはアンナのもとへ駆け寄ろうとするが、その前に彼女が紙をばらまき出した。
エミリーは足元に落ちてきた紙を拾い上げた。
そこにはいつもの誹謗中傷と共に、今の混乱はエミリーのせいだという告発文が書かれている。
「私が自分の婚約祝いパーティーを企画して、アンナを脅して生徒たちから金を集めさせた。集金した金額に見合わないパーティーを開いて、余ったお金を着服したって……」
「おいおい、いくらなんでも無理がある筋書きだな」
エミリーが紙に書かれている内容を読み上げると、隣で聞いていたルカスがため息をつく。
周囲にいる生徒たちは最初こそ興味津々で紙に書かれた内容を読んでいたが、最後まで目を通した途端に白けてしまっている。
「公爵家と辺境伯家の婚約だろ?」
「どちらもお金には困っていないでしょうし……」
アンナは周囲の様子に気がつかず、嬉々として紙をばらまき続けている。
彼女は王子の目の前に行くと得意げに胸を張った。
「お読みいただけましたか? あの女は……」
「いい加減にしろ!」
王子がアンナの話を遮るように声を張り上げた。
アンナは王子の反応が意外だったのか、目を丸くして驚いている。
「ルカスとエミリーは私の大切な友人だぞ。友人を侮辱されて私が怒らないとでも思ったのか! お前の行いは学園の品位を下げる。恥を知れ!」
「な、なんで? どうしてそんなことを言うの? 私はあの女の本性をみんなに教えてあげただけなのに……」
王子に怒鳴りつけられたアンナは、ふらふらとその場にへたりこんでしまった。
エミリーは肩を落として黙りこんでいるアンナにゆっくりと近付いた。
彼女の元にたどり着くと憐憫の表情を浮かべる。
服が汚れることなど構わず地面に膝をついてアンナを抱きしめた。
「私たち幼い頃からずっと一緒だったのに。私がもっとあなたと話をしていればよかった。そうすれば、こんなことになる前に止められたのに……」
エミリーは涙を流しながらアンナの背中を撫でる。
「まあ、なんてお優しいのかしら」
「ここまで慈悲深い方は初めて見た」
王子に叱責されるという醜態を皆の前で晒したアンナに優しく接するエミリーに、周囲の者たちから感嘆の声が漏れる。
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